JK、女子高生はマンション屋上の柵の向こう側で、ずっと遠くの空をみていた。

 

自分がここから落ちて遺体になる頃には、あの雨雲が全ての血を流してくれるだろう。

 

だがやはりなかなか手を離せない。

ここは10階。

落ちれば即死だ。

 

 

「危ない!」

 

 

急に後ろでおっさんが叫んだ。

両手にホウキとちりとりを持ったハゲの清掃作業員だ。

 

「何しとるんや!こっち戻っておいで!」

「なんでよ。私は死ぬんだから」

 

「やめとけ!どうしたんや!何があったんや!」

「あんたに関係ないでしょ!どこか行って!」

 

「せやかてワシはこのビルの担当や!ちょっと屋上の鍵閉め忘れたとこ、飛び降りられたら、わしはもう終わりや!」

 

 

少し間を置いて言いにくそうにJKは言った。

 

「………SNSで悪口言われて友全部切られたのよ。」

「SNSってなんや??学校か!」

「ググれやカス!」

「ググるってなんや??」

「だからそれをググれよ!」

「だから何を言うとるんや!」

 

だが、やはりなかなか手を離せない。

 

 

おっさんは懇願した。

「頼む。やめてくれ、ワシかて生活があるんや」

JKは最後に吐きつけるように言った。

「こっちは命かけてんだよ!お前の生活なんて知るか!」

 

おっさんは掃除用具を地面に投げつけた。

「もう知らん!勝手にせえや!そのかわりワシもやるからな!」

 

 

おっさんは柵を乗り越えた。

「お前みたいにな、容姿も若さもワシにはないんや!ただの独り身のチビのハゲや!お前が逝くんやったらわしが逝かんあかんわ。だいたい死ぬんやったら一発やらせんかい!」

 

 

JKは後ずさった。

「死んでも嫌や!」

おっさんは詰め寄った。

「だからお前死ぬんやろがい!」

 

 

JKの頬を枯れ葉がひとつ通り過ぎ、そしておっさんのハゲをかすめて行った。

 

先に動いたほうが殺られる(死なれる)。

 

二人はじっと睨み合い、ごくりと唾を飲んだ。

 

 

 

 

 

(2017/01/17筆ー2025/10/08加筆)