誰だ。

 

 

 

大学の猫サークルの飲み会から帰ってきた。

 

PCにメールが来ていた。一言。

 

 

 

「助けて」

 

 

 

誰だ みぃこ って誰だ。

 

怖いな。無視。

 

 

 

今日は都内の猫カフェ討論会だ。大きく割れた。

 

ほぼ喧嘩だな。あれは。俺も八王子は絶対、譲らないが。

 

で、お前か。

 

 

 

「助けて」

 

 

 

誰だ。みぃこ。

 

怖いな。返信。

 

 

 

「怖いから止めろ。迷惑フォルダに入れるからな」

 

 

 

何であいつら八王子の「にゃー門」の良さがわからない??

 

エセか?ホントは犬好きか?あれか、自分の猫が世界一とか言うあの類か??

 

分かってねえな。新宿の「にゃんだほー」なんて名前だけだろ。

 

 

 

で、お前か………。迷惑フォルダ見る俺も俺だけど。

 

 

 

「助けて下さい」

 

 

 

何だかしおれてきたじゃないか。みぃこ。

 

返してやる。

 

 

 

「お前、誰?」

 

 

「八王子にいます………」

 

 

それからは何度返信してもエラーだった。

 

 

 

今日は猫サークル名物、都内の猫カフェ店ベスト3の決定投票日だ。

 

出席する訳ないだろ。

 

八王子の「にゃー門」まで走るんだよ。

 

 

 

女性店主がビックリした顔で迎えた。

 

「あ、黒田さん、いらっしゃい。まだ開店前よ?」

 

「どこだ」

 

俺はズカズカと入り込んだ。その辺のドアを開けた。

 

「ちょっと、何してるんですか!」

 

「みぃこいるだろ!どこだ!」

 

女店主は固まった。

 

入り口からはわかりにくい場所に小さな部屋があった。

 

 

 

元気のない子猫が2匹、毛布に包まっていた。

 

下痢の後があった。毛並みが荒れていた。一匹がくしゃみをした。

 

「………お前これ病気か?何にしろこんな所に放置してたら死ぬだろ!!」

 

「いや、あの……」

 

「何で病院連れて行かねーんだ。風評がこえーのか。馬鹿野郎。みぃこはどっちだ」

 

「………死にました。この子らの母親です、ちょっと経営状態も傾いてて、それに感染るといけないし、とりあえず………」

 

 

 

俺はこいつが男だったら胸ぐらを掴んでた。

 

だから目でだけ、どれほど腹が煮えくり返ってるか、教えてやった。

 

「命の重さわかんねーんだったら、動物なんて飼うな!!」

 

…………にゃー門の猫たち。

こんなデカイ人間が大声で怒鳴ってしまってゴメンな。怖かったな。

 

 

 

俺はみぃこの息子達を引き取った。免疫は下がっているが、適切な治療をすれば長く生きられるかもしれない。

 

しかしめちゃくちゃ金がかかる。猫サークルは辞めた。バイトでセクキャバのボーイだ。

 

明け方、大学に行く時間までは息子たちと一緒に寝る。まだオドオドしてるけどな。

 

 

 

………なあ、みぃこ。お前どうやって俺にメールした?

 

どう考えたってありえないだろうが。

 

なんでだ。どうやってだ。

 

………それを考える度に俺は泣いてしまう。

 

 

 

お前の息子たち。幸せに育てるからな。

 

お前がやった奇跡、絶対無駄にしないからな。

 

 

 

もうゆっくり眠ってろ。

 

 

 

 

 

 

 

(この作品はフィクションです。多くのペットカフェさんは動物たちを大事にしておられます。2016/09/15筆ー2025/09/18加筆)