その薬品の名は『 D.S. 』、ダル・セーニョ。

 

 

意味はイタリア語の演奏記号からとられてる。………現時点からセーニョ記号まで戻り、楽曲を繰り返す………。

 

 

 

 

「ダル・セーニョ?なんだそれ」

 

「………重ちゃん。ちょっとしばらく黙ってて。このジュゼッペさんの話をちゃんと聞きたいの」

 

 

 

カリーナ・アザロの老いた甥、ジュゼッペ・アザロは語る。

 

【………不治の病の治療法ができるまで、当時12歳の叔母カリーナ・アザロはこの延命措置により死ぬことができなくなってしまった。そして治療法は1920年から今も見つかっていない。

 

 

しかし1940年、父親のフランコ・アザロが亡くなり、本人、カリーナ・アザロの保存が20年目を迎えた時、母ビーチェはカプチン・サンフランシスコ修道会に延命をやめ、父娘ともに永眠させることを依頼していた。

 

 

だが、わし達がカプチン・サンフランシスコ修道会だと思っていたのは、実はカプチン会から分派した異端、ルーシェ・サンフランシスコ修道会だった。

 

 

彼らは狂信的な教義を持っており、何よりもキリストの復活に執着し、それを現代で体現しているカリーナ・アザロを、分派したばかりの修道会をまとめる為に利用したんだ。

 

 

つまりルーシェ会は母ビーチェの願いを聞き入れず騙し、カリーナ・アザロに引き続き『 D.S. 』を施し続けた。

 

 

そして1981年、3度目の覚醒をしたカリーナ・アザロは、ミサの準備をしていたルーシェ会の目を盗んで、修道会内から母ビーチェに電話をしてきた。

 

 

そして会う約束をしたのがこの海岸だ。

 

 

しかしすぐそれに気づいたルーシェ会によってまた『 D.S. 』を施され、カリーナ・アザロは眠ってしまった。母ビーチェはその後すぐ亡くなった】

 

 

【 それってもしかして 】

 

【 そう。カリーナ・アザロは母ビーチェが亡くなったことを知らない 】

 

 

【 知らないのに今………。母に会おうと? 】

 

【 ルーシェ会はカリーナ・アザロが不死でなくなると困る。だからずっとカリーナを騙してきた。いつか母親に会えると、105年間も………。

 

わしはルーシェ会と目的は違うが、絶対にカリーナ・アザロを母ビーチェに会わせない。亡くなったことを本人に教えない。墓前に連れていくなんてもってのほか 】

 


【 ………そうですね。それは余りにも………】


【 分かるか。ジャパニーズ。大人達の都合で105年も勝手に延命させられて騙されて、結局、母は亡くなっていて会えないなんて、あの娘はまだ12歳だぞ? 】

 

 

【 ………止めましょう。ジュゼッペさん。とても見てられない。ルーシェ・サンフランシスコ修道会からカリーナ・アザロを奪い返す。もう嘘の延命なんてさせない。

 

 

そして、母ビーチェの死を知らせず、今度こそ安らかに、永遠に眠らせてあげましょう……… 】

 

 

 

 

 

(つづく)