2025年ーーーーーーーーーーーーーーーー
イタリア共和国
カラブリア州
ブーツの先、リカーディ
近郊の海岸
ーーーーーーーーーーーーーーーー23:08
「こりゃ………砂浜じゃねえな。断崖絶壁だ。何も見えない。足、滑らすなよ」
「見て重ちゃんあそこ………。誰かがテントを張ってる」
【 ……あのー。すみません。おじいさん。カリーナ・アザロのご家族の方ですか? 】
【 ………誰だお前ら?チャイニーズか? 】
【 ジャパニーズです。えーと、パレルモからポマレッリの漁港まで、カリーナ・アザロを送ってきたんですが……… 】
【 ポマレッリ?何故だ?何故そんな所へ? 】
【 んー。カプチン・フランシスコ修道会が、漁港までカリーナ・アザロを迎えに来て……… 】
【 ………そういうことか。入りなさい。腹は減ってないか? 】
【 いや。大丈夫です。お邪魔します 】
【 カプチン会とか言った奴はなんと名乗った? 】
【 ラウロ神父と 】
【 じじいだったか? 】
【 いや………四十そこそこでした 】
【 そうか。 】
【 カリーナ・アザロは貴方のお孫さん? 】
【 いや………カリーナ・アザロはわしの叔母だ 】
【 ………え? 】
【 叔母だ。年齢は110歳を超えてる】
「何だ?由加。このじいさんは何て言ってる?」
「………カリーナ・アザロはこのおじいさんの叔母だって。110歳を超えてるとか………」
【 どういうことですか?カリーナはどう見ても10歳そこそこですが 】
【 叔母は死ねなくなったのだ 】
【 ………おじいさん。『 D.S. 』って何ですか?カリーナ・アザロの背中にタトゥーが入っていました。ラウロにそれを聞くと黙り込んでいて………何か関係が?】
【 ………その名まで知っているんだな。じゃあ話そうか。
1920年だ。
わしの祖父母、フランコ・アザロとビーチェ夫妻の娘………カリーナ・アザロは12歳で不治の病に冒された。そこでアザロ夫妻は………。
時のロンバルド将軍に、将軍の娘ロザリオ・ロンバルドをエンバーミング(死体防腐処理)をした化学者、アルフレード・サラフィアを紹介された。
サラフィアはエンバーミングの研究以外に、密かに人工冬眠の実験をしていた。
それは血液の一部をある薬品に置き換えることで、半永久的に人体を保存できるもの。
もちろん冬眠中は意識はないし、身体も成長しない。
病の治療法が見つかるまで、カリーナ・アザロは保存されることになった。
しかしその薬品は20年毎に入れ替えなくてはいけなかった。………その度に試験体は目を覚ます。
その薬品の名が『 D.S. 』、ダル・セーニョ。
意味はイタリア語の演奏記号からとられてる。………現時点からセーニョ記号まで戻り、楽曲を繰り返す………。
(つづく)