2025年ーーーーーーーーーーーーーーーー
イタリア共和国
カラブリア州
レッジョ・カラブリア県
ポマレッリ
漁港
ーーーーーーーーーーーーーーーー20:41
小さな漁港の桟橋でスーツを着た背の高い男と、数人の修道士たちが重たち一行を待ち受けていた。
漁港の桟橋を照らすライトが強度を保ちながらも、物憂げに重たち一行を照らしていた。
しかしそのライトの逆光となっても、スーツの男がニンマリとしたまま目を開けず、そしてそれが作り笑いなのではなく元々そんな顔なのだということが重たちにはわかった。
【 ………日本人たち。イタリア語ができるらしいね?私は神にお使えする者のひとり。ラウロと申します。カプチン・フランシスコ修道会の関係者と言えば話が早いかな? 】
【 カプチン・フランシスコ修道会って………ロザリア・ロンバルドのミイラを保存してる修道会ですか? 】
【 まあその中でも………私はカリーナ・アザロを預かっている修道会の長だ。カリーナ・アザロはたまにこうやって家出しちゃうんだがね(笑)まあ、それはそれとして 】
ラウロのイタリア語が急に訛りだした。
クセの強いシチリア方言で口調が早く、由加は聞き取れなくなってしまった。
〈 カリーナ・アザロ。悪い子だ。お母さんはまだ眠っている。戻ってきなさい。母ビーチェは私達と共にある 〉
〈 どうしていつもお母さんに会えないの? 〉
〈 会えるとも。ただ、タイミングが合わないのだ。下手に起こすと身体が壊れてしまう 〉
「………由加、何だ?こいつは何を言っている?」
「………なんだろう?シチリアの方言かも。訛りすぎていてよく分からない」
〈 カリーナ・アザロ。今から母ビーチェの顔を見に行こう。今言った通り、起こすことはできない。
アルフレード・サラフィアが作ったものは歪で、完全ではないのだ。だが、次に覚醒するときは必ず二人を会わせる 〉
〈 ………そう。じゃあとにかくは………お母さんの顔が見たい。 〉
〈 ………こっちにおいで。カリーナ・アザロ 〉
「何言ってる?こいつら?」
「………よく分からない。サラフィアが作ったものが完全ではない?眠ってるとか起こせないとか?」
【 ………ねえ。お姉さんたち。ここまで送り届けてくれてありがとう。この人達は信用できるかもしれない。あたしはついて行く。じゃあね 】
【 ………ちょっと待って?………ナイフを向けてくる修道士なんて聞いたことがない。母親に会わせるだけなら、最初から話せば分かることだよ。どういうこと? 】
【 ………日本人よ。カリーナ・アザロは自分の意思で私達と行動を共にする。そうあるべきなのだ。お前たちはもう去れ 】
【 ちょ、ちょっと待って! ねえ。………ひとつだけ、聞きたい】
【 くどい 】
【 ………『 D.S. 』って何?】
【 ………】
【 この子を着替えさせた時、左肩に刺青があった。『 D.S.TRE 』 ってね。TREは3のことでしょ?どうしてこんな文字が彫られてるの? 】
【 ………もう一度言う。去れ、日本人。それ相応の礼は受けたのだろう。言っておくが私とは金貨で話し合えない。もう関わるな】
「行っちゃったな………。フローリン金貨、返さなくていいよな? 」
「………重ちゃんと別れたくなってきた」
「おおい!そこっ!?」
「人の本性はお金で現れるとも言うけども。重ちゃんはすごいわ」
「………まあそう言うな。てかさ俺は金貨を受け取ってからずっとカリーナ・アザロを観察していたが………。あいつは………」
「なあに?」
「子供じゃない。………大人びてるとかではなくて、あいつは正真正銘の大人だ。子供の容れ物に大人が入っている」
「………それは私も思っていた。というか分からない事が多すぎ。
何であの子はパレルモで、ボロボロの服と髪で路地裏を歩いていたの?
こんなイタリアみたいな先進国で?
お母さんに会いたいってさ、パレルモからリカーディまで300km以上離れてるよ。
そしてあんなに沢山のフローリン金貨を持っててさ、とても警察を嫌がっていた。
『 D.S.』って変な入れ墨が入っていて、ナイフを持った修道士がさらいに来るしさ。
最後は私達が買収した漁船に、誰かが圧力をかけて、変な修道会に連れて行かれた。
いったい何なの??」
「カリーナ・アザロは何者か………」
「………カリーナはパレルモで服を買う時、誰かに電話をしていた。ということは、上陸するはずだった砂浜に誰かが来ているんじゃ?」
「そうだな………。まあ、お前はカリーナ・アザロに同情しているんだろうな。でも俺はミステリーと金貨にしか興味ないよ」
「………じゃあ行ってみようよ。リカーディの砂浜へ。一体誰がいるのか。その人が全てを知っているはず」
(つづく)