2025年ーーーーーーーーーーーーーーーー

イタリア共和国 シチリア自治州

 

パレルモ・セントラル・レールウェイ・ステーション

切符売り場

ーーーーーーーーーーーーーーーー11:52

 

 

「飛行機じゃないの?」

 

「リカーディまでは鉄道のほうが面白い」

 

 

「重ちゃんの鉄道好きはもう飽きたよ。私にとっては電車はただの電車なんだけど」

 

「分かってないなぁ。ブーツの先のメッシーナ海峡は、鉄道で渡るんだよ」

 

 

「………?何が珍しいの?」

 

「なーんと。船が列車を乗せて、そのまま海峡を渡るんだよ」

 

 

 

 

「わー。すごーい………。いや………まあ、とどのつまり船だよね?」

 

「………ロマンがねえなぁ」

 

 

「重ちゃん、カリーナ・アザロ………。この娘がなんにしろ………。こんなボロボロのワンピじゃ電車に乗れないよ」

 

「そうだな………。どこかで買おう」

 

 

 

 

 

2025年ーーーーーーーーーーーーーーーー

イタリア共和国 シチリア自治州

パレルモ・リベルタ通り

衣料店 女子試着室

ーーーーーーーーーーーーーーーー12:15

 

 

【 んん………コルセット??なにこの服?どうやって解くんだろこれ……… 】

 

【 見栄えも大事なんだって 】

 

 

【 こんな薄汚れた服が?貴方のお母さんは何なの? 】

 

【 お母さんは誰よりもあたしの事を考えてくれている。いまだってそう 】

 

 

【 まあ、重ちゃんのスイッチが入っちゃったからもう私は何も言わないけど。私達にデメリットもないしね。………?あれ?これはなあに?入れ墨? 】

 

【 お姉さんはチャイニーズ?どうして私たちの言葉が話せるの? 】

 

 

【 ジャパニーズね。私は日本の銀行にいて主にイタリア系の業務をさせてもらっているの】

 

【 ………へえ 】

 

 

 

………………………✂️………………………

 

 

 

「お。今どきじゃん。カリーナ。可愛くなったな。髪も綺麗だ」

 

 

 

「重ちゃん。ジャパニーズがイタリア人との血縁を説明するのにどれだけ苦労したか分かる?」

 

「いや、知らない。じゃ、行こうか」

 

 

「ちょっと休ませてよ。トイレ行ってくるね」

 

「由加ー………。おーい………。………おい、カリーナ。俺はお前の話すこと、聞き取れないからな。よろしく」

 

 

その時、ジーンズに黒のジャケットを羽織った坊主のイタリア人が重に微笑みながら近づいて来た。

手を後ろに回したまま、カリーナ・アザロの目を覗き込みながら。

 

カリーナ・アザロはすっと重の後ろに隠れた。

 

 

「Give the girl here. 」

 

「………英語?」

 

 

【 ………娘を渡せ。そしてもう関わるな 】

 

【 ………あのな。お前がもしこの娘の保護者だとしても、ナイフを向けられて引き渡せるか? 】

 

【 ナイフの代わりに、ユーロで話し合ってもいいが? 】

 

 

「ちょ、何してるの!!重ちゃん!?」

 

「ちょ!ゆ、由加、大声出すな………」

 

 

黒いジャケットの男は走って逃げていった。

周りにいた買い物客たちの視線が一行に集まった。

 

カリーナ・アザロは深い溜め息を漏らした。

 

 

「刃物??重ちゃん?誰あいつ?何者なの??」

 

「しーっ!警備が来るだろ………。何で女はとりあえず大声を出すんだ。とりあえず逃げるぞ!」

 

 

 

 

 

 

1920年ーーーーーーーーーーーーーーーー

      約105年前

 

旧イタリア王国

シチリア島 モンレアーレ

▼アルフレード・サラフィア医療研究所

ーーーーーーーーーーーーーーーー??:??

 

 

古い医院の陽の届かぬ処置室で、初老の医師が横たわる少女の身体を丁寧に拭いていた。

 

 

「………愛しい、愛しいカリーナ・アザロ。私には子がいない。家族もいない。長年連れ添った助手は逃げてしまった。

 

しかし私はこの絶対的な孤独の中で、お前に出会うことができた。私はお前と言葉を交わすことなく死ぬだろう。

 

しかしどうかお前は安らかに。そして自由に生きるがいい。これから私は、お前を未来に託す………。

 

どうかシチリア島が、聖アガタがお前を護りますよう」

 

 

 

(イタリア共和国シチリア自治州の州旗と守護聖人のアガタ)

 

 

 

 

(つづく)