冷え切った床が鈍い光を放っている。
その無機質な緑は脱出口を示すはず。
しかし押し付けられた頬は、発光源すら見つけられない。
何らかの油の匂いがする………ワックスか。
「居場所が分かったんでしょう」
「ぎ、?」
「いま触覚を伸ばして頭を振ったよね」
「………」
「まず車椅子を探す。連れて行きなさい。間に合わなかったらお前も殺す」
「何故そんなに簡単に殺す………」
急に目の前が歪んで、6本の足が伸び切った。
身体の異変に精神がついていけなくて、頭の中が洪水になる。
ああ、ああ、また殴られたか………。
そんな物で何度も殴られたら死んでしまう。
触覚を掴まれ頭を引っ張られた。
「おい。簡単に殺す?何を言ってるの?お前らが先に父を殺したんだろうが」
「………?………?」
「三人共、眠らされた。母は医師に連れて行かれた。私が起きた時、父はもう息をしていなかった。分かるか?昆虫。お前らが殺したんだろうが!!」
「下渦(げか)の仕業か………馬鹿者共が………」
「私は絶望なんてしない。そんな暇はない。早く母を見つけなければ」
車椅子のタイヤが軋みながら回る。
キュルキュルキュル
もうこれ以上押せない、血が?血が。死ぬ………。
頭の中で娘、ジェラ二ギャムチュが軋む音がする。
きりきりきりきり
「………その昔、貴様ら髪長氏の一族は戦に破れ、黒氏盆地に逃げてきた」
「何?」
キュルキュルキュル
「我ら黒身は焼かれ、泣く泣く森の半分を譲り、それ以上互いが争わない様に髪子(かみんこ)の儀をつくった」
「………興味がない。声を立てないで」
きりきりきりきり
「いいか。我らにとって人間の感情を喰らう事は、必ずしも必要な事ではない」
「やめて。おかしくなっちゃった?今、死にたいの!?」
「故郷を奪われた我らは………。行き場のない黒身の心は………自身では気付かないうちに復讐をする」
(………………死んだ?………ジェラミジェリが???妹が死んだ!?私は髪長氏の一族を殺せとは命じていないぞ!?………!?………あぁ………ぁあぁぁ………。妹が?ジェラミジェリが死んだ??)
つづく。