C棟へと進むと大きな吹き抜けの休憩所があった。
我は上からそれを覗き込んだ。
薄暗い空間に非常口の緑がこぼれ、その先にはそれを覆い隠すように自動??販売機の白がぶち撒けられていた。
無機質で凍った空間、生のない空間。緑、白、赤。
その静寂を破るように、大きな物音が聞こえてきた。
キュルキュルキュル
老婆を乗せた担架を、二人の看護師が急いで押して行った。
老婆は胸をはだけ、何やら管が通っていた。
息をしているようには見えない。
今際の際か。
何故人間は自然に死ねないのだろうか。
病も事故も運命ではないのか。
過剰な延命は本当に意味があるのか。
子を失い命を絶つのも我。
罪の中生き続けるのも我。
我は他に任せたくはない。
………この部屋だ。
ここに屋白美香の姉、京香、そして父母がいるはず。
背後にいる屋白美香は何を考えているか知らぬが、本来の姿に戻った我の力を止めることはできない。
我は昆虫の体に戻り、部屋に押し入ろうとした。
が、その時、カマキリと化した我の腹の先を、屋白美香が握りしめた。
「………随分苦しかったでしょう。小さい頃知ったの。私が引き抜いてあげる」
屋白美香はそう言って我の体から何か糸状のものを引き抜いた。
引き抜かれたそのゼンマイのような生き物は地面に落ち、少しのたうった後、死んだ。
「ハリガネムシ。。昆虫の頭乗っ取って入水自殺させるんだってね??」
我は頭がガンガン、いやほわほわ?し、ふらつく?
「ほうら。頭がすっきりしたんじゃない?」
美香は我の首に抱きついて言う。
「ねえねえねえ。どんな気分?」
ぎぎ、我は頭に酸素が行った?のか?
「もうやめよ。私は家族を守りに来たんじゃない。貴方を止めるために来たの。貴方は本当は誰も殺したくない。一族の恨みなんて背負わないで。お子さんが亡くなったのに、貴方の心も亡くなってしまう」
ぎ、ここから逃げなければ。離れなければ。お腹がスカスカする。
「一緒に帰ろ?でもどうしてもどうしても、黒身達が納得しないのであれば、私をズタズタにして。禁を犯したのはあたし。痛くてもいい。あんまり痛いのはやだけど痛くてもいい。それがあたしの運命」
我は美香を振り解いて暗い廊下を走り始めた。
その入れ違いに、女の看護師がにたーっと笑いながらで部屋に駆け込んだ。
(わたしの かみんこぉ)
緑が海のようだ。