あたし、美香とばっちゃんは真夜中の山道を登った。
「ばっちゃん。黒氏洞穴に行くの?」
「そう、本当は頭巾をつけた人間しか登ってはいけない。お前は特別だ。………詳しくは後で話すが今、わしとお前以外の家族は、京香たちは、東京で野生の黒身(こくしん)共に囲まれている」
「ええっ。ちょ、どうするの!?」
「詳しくは後だ」
しばらくすると光が見えた。
覚えてる。
黒氏洞穴。
大人の背くらいの入り口。
奥は深くない。
赤い布を挟んだシロバコが天井まで積み重ねてある。
ゆらゆらと揺れるろうそく。
小学校の頃。遊び半分だった。
友達のあいちゃんと忍び込んだ。
バレたら叱られるどころの話じゃない。
何年も蔵に入れられると聞いていた。
で、出会ったんだ。
ろうそくを吹いて遊んでた時。
急に背筋が急に凍る気がした。
ろうそくの影がおかしくなった。
入り口に人間の大人ほどの黒いカマキリがいた。
「ぎ、ぎじ。ぎ。何故だ。今日は髪子(かみんこ)の約束の日だ。何故、子供がいる?」
カマキリ、黒身(こくしん)はあたしの前に来て片方の目を押し付けた。
あたしは息が止まりそうで、あいちゃんは大声で泣き叫ぼうとした。
「泣くな。ぎ、待ってろ」
黒身(こくしん)は触覚で、積み上げたシロバコを舐めるようにして首を振った。
「お前らの髪はある。もうここへは来るな」
あたし達はしばし気を失った。
で、今。
黒氏洞穴前の小さな平地に火が炊かれ、
頭巾をした爺さん婆さんが集まっていた。
爺さん婆さんっていっても農耕の人間。逞しい。
いや、でもそれより………槍(ヤリ)がたくさん…………………。
人間の子供程の大きさの黒身(こくしん)の身体を、沢山の槍が貫いていた。
その子は地面に顔をうずめ、小さなうめき声をあげていた。
もう殆ど動けなかった。
黒い血が溢れていた。
そして洞穴の上の森からは………。
上半身だけ人間に化けた黒身(こくしん)が泣き叫んでいた。
「お願いします!お願いします!その子は、その子は、まだ子供です!お願い!」
「ぎ、ぎぎ」
あたしは思わず叫んだ。
「…………?…………? ちょっと!!ちょっと!!子供でしょ!?」
つづく。