盆が終わった。
憂鬱だ。
なぜに大阪に転勤だ。
なんだこの暑苦しい街は。
でも髪子(かみんこ)をしなければならないから、お盆には丸1日かけて実家に帰る。
東京の京香姉ぇは何故帰って来ない?
やっぱり頭いいんだろうな。外資で昇進だってさ。
できない妹、美香はもう心折れてますハイ。
適齢期すぎる前に地元で結婚すっか。
お椀みたいな盆地でさ。
ヤスは林業やってるって言ってたな。
一度ヤッたな。高2の時か。
まあ、そんなとこか。
子供は好きだからそれなりの人生だろう。
退職。
ありがとうございました。
大阪の家財道具は全部売った。
服も地味なものだけ。
あの陰気臭い盆地にブランドものは要らない。
京香姉ぇに止められるから退職の事は誰にも言ってない。
体ひとつで帰っても広い家だし何とかなるでしょ。
地下鉄、新幹線、鈍行、バス、タクシー、徒歩………。
隣の国の首都行ったほうが早いんですけどっ!?
くったくた。田舎の夜は早い。もう家族は寝てるだろう………。
かける鍵もないしな。
と、思ったら玄関の引き戸が急に開いた。
ばっちゃんがいた。変な印の入った頭巾と槍??を持っていた。ヤリ??
あたしの顔を見てばっちゃんは、あたし以上に驚いていた。
「なんだ、お前、美香、ここで何をしている??」
「え?え?大阪捨てて帰ってきたよ」
ばっちゃんは片手で顔を抑えた。
「誰もいないから油断しとった。………頭巾、見たよな?」
「え?いやいや、それより槍」
「………ほんっとにお前は馬鹿よの。………これは黒身(こくしん)を退ける印だ」
「………カマキリ」
「誰もお前ら姉妹に教えていないのに。なぜお前は知っている?」
「子供の頃、友達と黒氏洞穴に忍び込んだ時に見た。怒られると思って誰にも言わなかった」
「………そいつはシロバコの髪を数えていたか?」
「触覚をシュルシュルって。『お前らの髪はある』って言われた。何もされなかった」
ばっちゃんは額に手を当て深い溜め息をついた。
「最も不向きなお前にわしの後を継がせることになるとは………」
つづく。