朝か………。
あの女性看護師は交代なんだろうか。
本当に虫だった?
幻覚なのかどうか判断出来ない。
部屋に医師が入ってきた。
禿げ上がった頭で背の低い中年の男だ。
ニコニコとしながらベッド脇の丸椅子に座った。
「屋白さん。私はあなたの主治医をさせて頂く、石川と申します。貴方は人身事故を目撃され、ショックで倒れ込みました。その際、頭部と腰と足を痛めております」
「飛び込んだのは男性ですか?」
「………そうです。お亡くなりになりました」
「どんな人ですか?」
「どうしてそのような事をお聞きになるのです?」
「いや………」
「それは警察の管轄です。そして警察は個人情報は教えてくれません」
「分かりました」
「私が今日、伺ったのは現在のところ脳に異常は無いという事です。右足は酷い捻挫ですのでギブスを巻きました。腰は自然と治ります。そして………これは、これについてはあなたの判断に任せます。心療内科、カウンセリングなどを希望されますか?」
「………」
そこへ母が部屋に飛び込んできた。
医師を無視して私の手を握り、泣き出した。
「………良かった。良かったね」
医師が言った。
「お母様ですかね?私は主治医の石川と申します」
しかし母は見向きもせず「二人きりにして下さい」と言った。
………医師は個室を出る時、こちらを向いて嫌な顔で笑った。
(無駄、無駄)
つづく。