盆だ。

憂鬱だ。

 

 

私の実家はとある県の盆地にある。

表向きは何もない小さな町だ。

 

 

しかしこの町には奇妙なしきたりがある。

それは、

 

 

 

『毎年のお盆、町外れにある洞穴の中に自分の髪の毛を一本、家族の毛と一緒に白い箱に入れて保管する』

 

 

 

これはご先祖様が誰を守ったら良いかを判別する為にあるらしい。

私の髪の毛が入っていたら、ご先祖様は私を守るのだと。

 

 

気持ち悪い。

髪の毛だらけの洞穴なんて。

 

 

皆その小さな箱を『シロバコ』と呼んでいた。

各家にひとつずつ洞穴の中にあった。

 

 

ある盆、私は忙しくどうしても帰郷できなかった。

昇進したからだ。母に電話した。

 

 

「それは仕方ないけど………」

「ごめんね、今の仕事が片付いたら9月か10月に行くよ」

 

 

結局、実家には帰らずじまい。

何度も何度も電話がかかってくる。

母さんも婆様もしきたりにうるさいから、はっきり言ってついて行けない。

 

 

ある朝、私は駅のホームでうつらうつらとしていた。

気がつくと隣には高齢のおじいさんが並んでいた。

杖をついていた。

 

 

ここは東京の田舎駅だが、

こんな高齢のおじいさんが通勤ラッシュに並んでいるのは変だ。

思わずじろじろと見てしまった。

するとそのおじいさんは突然、私に声をかけてきた。

 

 

「おはようございます」

「あ、おはようございます」

「あんたには何も憑いとらんね。あいつと同じ」

「は?」

「次の食べ物はあんただよ」

「は?」

 

 

その時、田舎駅を急行が通り過ぎようとした。

 

 

私の近くにいた人間が線路へ飛び込んだ。

バーンという大きな音と共に辺り一面が血の海となり、

人間の中のあらゆるモノがあちこちへと飛び散った。

私は血まみれになり、身体中にその色んなモノがべったりとくっ付いた。

 

 

中でもショルダーバッグにちょこんと乗ったのは、

素人でも分かる『脳』の一部だった。

私は気を失った。

 

 

 

(………おいしいおいしいお前たち。何も守らないから守られない。遅いよ。もう遅い。すぐには殺さない。さあ、じっくりじっくり、餌をおくれ。絶望ってやつだよ。簡単に言えばさぁ)

 

 

 

 

(つづく)