へぇ。
あ、私か。律子か。
やっと終わるかぁ………。
青いグレープフルーツ。
紫色のコーヒー。
怖かった。
街中でふと立ち止まる。
みんな迷惑そう。
でも私には………。
君たちみんながコンクリートに見えるんだ。
火星人に見えるんだ。
髪の毛が傷んだ男の子が近づいて来た。
「バイトしませんか?」
そう言いながら男の子は口からボロボロとコンクリートを吐き出す。
想像つくかな。そんな世界。人間が自分しか居ないんだ。
そしてコンクリートを穴に挿れられるんだ。
アホ嫁由加の娘はコンクリ車から出てきたばかりだった。柔らかかった。
でも差別はしなかった。
私は父親を9回刺したらしい。検事が言うにはね。娘も9回だって。すごい偶然だね。
法廷で検事は『9という数字には何か意味があったのか』と聞いてきた。
私は後ろを振り返り、『嫁も9回刺しましょうか?』と言った。
「見てください。この容疑者に反省の色など、どこにもありません。」
んー………。
まあやっと殺してくれるんだね。
なんで自分で、できなかったのかな。
まあいいや。
もうすぐ死ぬから。
ご飯もお祈りもいらない。コップ一杯の水をください。
頭巾被るのは拒否したんだけど規則なんだって。
へぇ。
コンクリートは本当に怖かった。
でもやっと解放される。
皆さん、どうも長い間ありがとうございました。
へぇ。
火星人サン達。
私は布を被され、ロープを首に回された。
………その瞬間、急に雨が降ってきた。
目の前に張りたてのコンクリートがあった。
りっちゃんと律子と由加はそこに足跡をつけようとした。
後ろから翔兄ちゃんの声がした。
「りっちゃん。火星人は敵じゃないよ。翔兄ちゃんは今からりっちゃんの為に火星に行ってみんなと仲直りしてくる。」
「誰も私を見ない………。私が火星人を見てるだけ………」
「お父さんもお母さんも、いつまでもああではないよ」
「一番悲しいのは私なのに………あんなに泣くお父さんとお母さんを見せられたら私はもう涙が出ないの。私は誰の目にも見えないの」
「りっちゃん。律子。由加。本当にそのコンクリートに足跡をつける?みんなはまだ小さくて、小さくて、誰にでも甘えてもいいのに」
「……………翔兄ちゃんの言うとおりにする」
ふっと雨が止んだ。空から光が差し込んだ。
私は翔兄ちゃんに優しく背中を押された。
私は涙をポロポロ流しながら大声で言った。
「お父さん、お母さん、私、翔兄ちゃんが死んで悲しいの!!」
父親は一瞬、驚いた顔をしたが何も言わず抱きしめてくれた。
コンクリート工事のおじさんは座って煙草を吹かしていた。
そっか。
火星人なんて、いなかったんだね。
翔兄ちゃん。翔兄ちゃん。
今日だけ泣くね。
そして明日からは、私がお父さんとお母さんを、抱きしめるね。
本当はみんな、愛してるの。ごめんなさい。
(終)