わたし?由加?
目が覚めた。
天井の色が違う。
飛び起きた。
冷えた畳、薄っぺらい布団。
部屋の隅の小さなトイレ。
ノブのない大きなドア。
そのドアのちょうど目の高さについた、郵便ポストみたいな小さな窓。
ここは………独房?
あれ?律子は?旦那は?娘は?
私は混乱した!
急にその小さな窓が開いた。
「勝手に寝てはいけません」
私は目をまんまるとした。
「あの!ここどこですか!?あなたは誰ですか!?」
「誰って刑務官です。もうそんなのやめなさい。精神鑑定、済んでいるんですから」
「本当にわからないんです!私、何かしましたか!?」
「もう観念して前向いて逝きなさい」
私は開いた口が閉まらなかった。
「………え?え?死刑ですか?」
「いつ執行されるかは私たちには分かりません。もう観念して、じっとしてなさい」
何でだ。
今日は旦那も私も休みだ。
律子とお茶する予定だった。
私は扉を叩いた。
「刑務官さん!刑務官さん!」
小さな窓が開いた。
「なんですか!他の受刑者もいるんだから静かになさい!」
「えと、今日は2023年の4月2日ですよね!」
「もうそういうのはやめなさい。今は2024年。観念しなさい」
私は布団に倒れこんだ。
何がどうなっているのかまるでわからない。
私はただ今日は律子とお茶する予定だったのに。
………よく見れば左腕が傷だらけだ。自分でえぐったのか?
………何の為に?
強烈な睡魔に襲われた。
私は高層マンション群の前で刃物を持って立っていた。
旦那は娘を盗み私を召使いにする。
二人への愛情はもう枯れ果てた。
私は娘が寝静まった後、何度、旦那に土下座をしたことか。
元ソープ嬢だ。しかも連れ子。
サラダのドレッシングひとつで私は毎日、怯えてる。
しかし旦那にすがりつくしか生きていく術はなかった。
でも今日で全て終わり。私の家族。バイバイ。
チョコレートパフェの上に真っ青なグレープフルーツがふたつ………。
目が開いた。
天井の色が違う。
私は跳ね起きた。
さっきの夢は現実?
だから私はここにいるのか?
律子?旦那?
精神鑑定したんだろ?
どうみたって責任能力無しじゃないか!
でも今更何ができるんだ。
私は大声で泣き出した。
小さな窓が開いた。
「静かにしなさい!最後くらい他人の迷惑考えなさい。聖書を読んで祈ってる死刑囚だっているのよ?」
私はドアの前に崩れ落ちた。また気が遠くなった。
………おーはっよ。
あっはっはっはっはー♪
みーんなバカ♡
りっちゃんがちょちょいとすればこのとーりー
みんな面倒くさい大人ばかりだしさ。
みんなで一緒に消えよーねー。
てか、りっちゃんも飽きちゃった。
火星人サンだらけの地球。
『大人の律子』も『大人の由加』も、りっちゃんに操られてるって本当に分かんないのかな。
根本は一緒だけど反対になってるって気づかないのかな?
精神鑑定は楽々スルーしたよ。
大人の真似なんて簡単。
翔兄ちゃん、これで良かったよね?
火星人、ちょこっとやっつけたよね?
コンクリート吐き出す汚い奴ら。
どうしよ?りっちゃんの火星人サン奴隷たち。
『大人の律子』と『大人の由加』
死刑まで後幾分か時間があるけど
今の流れ、もっかいやっとく?
(終話へ)