目次へ

 

 

 

 

「そいつはどんな妖怪なの??」

【妖怪じゃない………神ですわ】

 

 

「神って………」

 

 

【コケムスメとは日本神話における神、石長比売(イワナガヒメ)のことですわ。

 

岩石を司り、健康長寿のご利益があるといいます。

 

しかし天皇家の祖先である天照大御神(アマテラス)の孫、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が地上に降りたとき、

 

父である大山津見神は美しい妹の木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)と一緒に嫁へやったのですが、

 

瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)は石長比売(イワナガヒメ)を醜いと言い、彼女だけを大山津見神に送り返しましたの】

 

 

「ひどい話」

【その結果、子孫である天皇家は短命、といっても現代の人間の寿命になったと言われていますわ】

 

 

「その神が私たちに何の用なの」

【わからない………塗南苔(ぬりなこけ)を捕まえて聞くしかありませんわね】

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

神社への石段は闇に包まれていた。

月以外なんの明かりもなかった。

波の音が近く聞こえた。磯の香りがする。

 

 

「これって普通の神社よね??誰もいないし暗い」

【塗何苔(ぬりなこけ)が結界でも貼ったのかもしれませんわね】

 

 

急な石段を登っていると、奥の社からゼーハーゼーハーと今にも止まりそうな吐息が聞こえてきた。

私は見上げてギョッとした。

 

 

象よりも大きい、馬鹿でかい灰色の男がいた。

大男かとは思っていたが、その倍以上はある。

顔や尻は出っ張っている。目はギョロリと飛び出していた。

 

 

黄色い腰布を巻いていたが、先っぽは魚のようにとんがっている。

よく聞こえるがゼエゼエとした声で私に言った。

 

 

(こい)

「どこへ?」

 

 

(こい)

………こいつが8人殺したか!!!

 

 

本殿への急な石段はそれ以上登らず、私は少し逸れた雑木林に連れて行かれた。

 

 

そこにはしめ縄をした大きな神木があった。根には苔むした石を抱えていた。

塗何苔(ぬりなこけ)はその右に鎮座し、首を垂れた。

 

 

私はすぐに神木へガソリンを撒き、ライターを手に取った。

「もう誰を殺すのもやめなさい」

 

 

塗何苔(ぬりなこけ)が首を垂れたまま言う。

(人では神を殺せない)

 

 

そうするとみるみるガソリンが地面に染み込んでいって、何も香りがしなくなった。

そしてライターを持つ私の手が苔むしだした。

ひどい激痛が走った。

 

 

いきなりスマホが鳴った。

SNSではなく電話回線の方が鳴った。

 

 

「母からだ………電話だ………ゆり子、一旦切る」

私は右手の苔を払いながら電話に出た。

 

 

【道代?】

「………母さん??」

 

 

【うん、あなたねえ、前に真也さんが変な声聞いたって言ってたじゃない】

「うん………??」

 

 

【私もいま変な声聞こえた気がして。みちよ、ってさ。それで電話してみた】

「あ母さん………今何してるの?」

 

 

【姪の勇気をおんぶしてるわよ】

「………何か赤いものに触った?」

 

 

【ん………?抱っこ紐は赤いわよ】

「お母さん、よく聞いて、私から連絡あるまで、勇気ちゃんを離さないで」

 

 

【もうお風呂だよ】

「………離さないで!!」

【どうしたのお前………】

 

 

「赤いものから離れないで………絶対に、絶対おんぶ紐とらないで」

【あなた大丈夫??】

 

 

私は電話を切り鼻を啜って狼狽した。

何だこれは?何が起きている?

 

 

「………どうしたらいいの。私の命を捧げればいいの?」

塗何苔(ぬりなこけ)は黙って首を垂れたまま。

 

 

 

 

「何よ!!何が目的なの!!!!」

 

 

 

 

すると神木の根、苔むした石に切れ目が走り、文字となった。

 

 

 

 

 

さ く や

 

 

 

 

 

 

(終話へ)