明け方。私たちは静岡県某市にある更背辻(きぜつじ)に着いた。
そこは畑に囲まれた二車線の道路に、登り下りの線路がかかる十字路だった。
三方は畑、一方は森林だったが学校のグラウンドほどしかなく、こじんまりとした森だった。その奥には古い家々が山の麓に小さく並んでいた。
「これだねっ」
そう言ってインリンは線路脇のバスケットボール大の石を指差した。
「人間の顔に見えるね。ここは文字かな………元?っ」
堺ゆり子がSNSを通してスピーカーの奥から言った。
【元文でしょうね。江戸中期の元号です】
「その頃からあったのね………。なんで今更呪いを?てか、塗南苔の本体?なのに全然苔むしてないね」
「この線路ができたせいで日当たりが良くなりすぎたんだっ」
「それで復讐を?遠く離れた東京都まで?」
「この路線は東京まで繋がってるっ」
「森に返して自由にさせてやろう。また苔むすように。じゃあ掘り起こすねっ」
「これで収まるのかな」
「わからない。でも少なくとも燃やすものは無っ」
「供養か………」
私たちは森にはいった。
朝日が立ち込める、幻想的な森だった。
昼にもなれば木漏れ日があるのだろう。
「ここが良いだろう。苔ばかりだ」
「ぬりなこけさん。これで静まってください」
「車に戻ろう。警察にも出頭しなきゃいけない」
「………てか。インリン、普通に話せるんだね」
「天然のふりしてる方が色々と都合がいい。ゆり子、塗ちゃんの石を苔むせるところに埋め直したよ。焼くとこなんてないくらい不憫なものだったよ」
【それが今のベストだと思います】
「今からボクとミッチーは出頭する。迎えにくる準備だけはしといて………あ」
【伊織?】
「………聞こえてしまった。ゆり子、すまん。今までありがとう。愛してる。咲夜ちゃん。そこにいる?咲夜ちゃん!」
【は、はい!】
「ゆり子を頼むよ。今は咲夜ちゃんにしかお願いできない」
【はい………】
「………咲夜って誰???」
【え?え?どうしたの伊織】
「愛してる」
そう言って伊織は通話を切った。
「声を聞いたの??」
「さあて………。27、だとよ。何だ27って」
「さあ………。まさかここで27人死ぬってこと??」
「まあそうだろうな。でもどこで………」
カンカンカン………。
「あれしかないわな」
そういって伊織は全速力で走り出した。
向かう先は………更背辻(きぜつじ)の踏切。
線路上には赤い石があった。
「ゆり子を頼んだよっ………」
インリンは線路上に飛び込んで赤い石掴んだ瞬間、黒い塊となった。
あと3
(つづく)