こんな田んぼの真ん中の停留所で待ち合わせ?
消え入りそうな街灯。後は真っ暗。
カエルの声しか聞こえない。
そこへインリンは白の軽自動車でやってきた。
「乗ってーっ」
妙にふらふらとする運転をしながら、インリンは前を見据えて聞いてきた。
「タテちゃんは苦しんだ?」
「ううん。眠るようにして死んだ」
「死に顔は?」
「見れなかった」
「そっか。あ、ちなみにこの白の軽自動車、なるべく赤がないものを選んだけど、シートベルトの差し込み口は全車共通、赤だからね!!声聞いた後は気をつけてね」
「はい」
「さて、これからの予定」
「うん!」
「何だか腹括ったような顔だねっ。まあ次はボクかミッチーだもんねぇ」
「どこにいくの?」
「神奈川県にある更背辻(きぜつじ)という十字路」
「何があるの」
「苔の本体」
「………??ガソリン漏れてない??」
「漏れてないよ。積んでるだけ」
「何するの」
「正体を突き止めた。やっぱり妖怪だ。後はゆり子から聞いて」
インリンはそう言ってスマホからSNS通話に繋ぎ音声をスピーカーにした。
「ゆりにゃ♥️噂のミッチーだよ」
【初めまして。聞こえマスですか?】
「はい。綺麗にきこえます」
【伊織と主従関係にあります堺ゆり子と申します。よろしくお願いイタしますわ】
「初めまして。犬立道代と言います。私は4人目の犠牲者、小野寺真………」
【率直に申しまして今あなた方を攻撃しかけているのは、幕末に描かれた妖怪絵巻(百妖図)に描かれている妖怪、塗南苔(ぬりなこけ)かと思われます。
なぜこの者が攻撃してくるのかは分かりません。考えられるのは犠牲者の1人が何らかの禁忌を犯した結果、関係者全員がまとめて◯されるのかも知れませんわ】
「その場合11人だとボクとゆり子とミッチーを入れても1人足りないんだけどねっ」
【塗南苔(ぬりなこけ)は(百妖図)に画と名こそありますが、他の妖怪とは違い説明文がありません。ただ名には苔とつきます】
「そうそう」
【ですが、1776年に鳥山石燕によって描かれた(画図百鬼夜行)には塗仏(ぬりぼとけ)という妖怪が描かれており、これが塗南苔(ぬりなこけ)と同一の妖怪だという話もあります。
ただし、見た目が全然違います。塗南苔はぎょろっとした目を持つ石色の妖怪ですが、塗仏の体は黒く、目が飛び出しています】
「塗仏(ぬりぼとけ)はどんな妖怪なの」
【仏壇から出てくるとか………そんな程度の情報です】
【しかし古い民謡から分かったのですが、塗南苔(ぬりなこけ)は江戸後期の一時、道祖神として扱われていたことあるらしいとわかりましたわ)
「道祖神て?」
【村を厄災から守るため、村の入り口にた建てられた像のことです。かなり多種多様なものがあったそうです。
有名なのは夫婦像。塗南苔(ぬりなこけ)も苔の精霊として一時は静岡で祀られていたようです】
「T字路の六地蔵さんの祟りかと思ってた」
「まさかっ。彼らは人間を守る。修也ちゃんが土砂崩れに巻き込まれた時、ミッチーとタテちゃんは六地蔵に守られたんじゃないのっ?」
【うん………でどんな童謡だったの?」
(昭和12年に録音されたものがありますわ。歌詞はこれ】
きぜ つじ わき の うたまかせ♪
みどり の おにさん いいよった
まっか の おにさん たべよった
あーお の おにさん しかられる
みそぎ を もっても はいられぬ
いのち を もっても おいかえし
さいた よる に は やりなおし
やりなおし………
【冒頭ではっきりと更背辻(きぜつじ)と歌っていますわ。歌任せってのはこの歌だけでその場所を特定できるということですわね】
「うんっ。そのあと前半、
緑の鬼さん言い寄った……………塗南苔による死の宣告。
真っ赤な兄さん食べよった………赤を触ると死ぬ呪い。
青の鬼さん叱られる……………死んだ人間かっ。ここまではいいっ。
後は何だ………?
禊(みそぎ)が?入れない?………禊は水浴して身を清める行為。なぜ入れないんだろうっ?
命を持っても追い返される?
どこから追い出されるのっ?
裂いた夜?やっぱり腹が掻っ捌かれるのか………?この辺はさっぱりわからないっ」
「やりなおし、やりなおし………ここだけは明確に繰り返しているね」
【後半はさっぱりわからないですわね】
「まあ………何にしろもうすぐ更背辻。ガソリンとマッチで苔を全て燃やすっ」
(つづく)