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(私は何だかあの勝気な館山恭一郎が小さく見えた。

それはそうだ。彼は(赤いもの)に触れたら死ぬ。

 

自分の血すら猛毒。

 

エレベーターのボタンすら押せない。

換気扇すら回せない。

テレビのボタンすら押せない………

万事窮すとはこのことだ)

 

 

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(ボクはこの事象をもう少し観察したい。

館山がちぬところが見れたらいいが………。

いや、それはやり過ぎかっ。

 

今晩は三人でホテルに泊まるのがいいな。

ラブホなら匿名だし3人でも泊まれるっ)

 

 

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(どうして俺はもうちょっと頭を使わなかったんだろうか………。

いや、しかし植木鉢がアウトなだんて誰も思わないだろう)

 

だからこれからどう動くかだ。

俺は実験台だ。俺にしかできないこともある)

 

 

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「今日は3人でラブホに泊まろっ」

「ラブホ?」

「タテちゃんを観察したい。また、僕らもほんの些細なことでも彼にアドバイスする」

「助かる」

 

 

私たちはカフェのある百貨店を後にし、センター街の外れにあるホテル街に向かった。

平日だからか街道を歩くカップルは少なかった。

しばらく物色すると、真っ赤な建物があった。

 

 

(HOTEL REDZONE)

 

 

「ホテル限界??」

「せっかくだからこのぐらいのトコ行かないとっ」

 

 

「んー。SMルームがあるねっ。ここは赤そうダァ」

「インリン、本気で言ってるんですか?」

「あーもータメ語でいいよっミッチーの方が年上だし」

 

 

異様な部屋だった。

キングサイズのベッドが真ん中にあり、右手にはマッサージチェア。

左には………丸い木馬と、上部で手を固定する腕枷がぶら下がっていた。

そこまでは良かった。

 

 

問題は照明が赤いことだった。

館山は入り口に立ったまま直立不動していた。

 

 

「さて、この赤いライトの下に行ったら死ぬかなっ?」

「やめろ、ほんとに死んだらどうするんだ」

「そうよ!これが目的だったの?」

 

 

「いや、たまたまだよ。でもカフェからここに来るまで、いくらでも赤いランプはあった。ほら、パトカーだっていた」

「それも、そうね」

「………これでいいか」

 

 

館山は赤い照明の下にでたが何も起きなかった。

 

 

「ほら、照明は害がないみたいだ。でもこの光源の赤いランプを触ったら死ぬだろうねっ。枕や毛布なんかはもっての他」

「とりあえずは良かったー」

 

 

私は安心してついついベッドに仰向けに倒れ込んでしまった。

「はい、ほいじゃあ撮影始めるよっー」

 

 

「撮影??」

「撮影?」

 

 

「タテちゃん、約束したじゃない。ボクはキミらを助ける努力をする。そのかわりネタにさせてもらう」

「そうだな」

 

 

そう言ってインリンはスマホに三脚をつけた。

 

 

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(ボクの見立てではこれはただの呪いじゃないっ。人間じゃないが、幽霊でもないっ。

このネタを追っかけるということは命懸けだ。

 

11人死ぬ前に(何者か)を特定し、呪いを解かないとっ。

もうゆり子も巻き込んでしまってる。)

 

 

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「んじゃ。完成する映像は、このインタビューを流す前にダイジェスト、説明が入るからね。じゃあカメラ回すよ。顔は映んないからねっ。」

 

 

【何者かの声はどんな声だったのですか】

【………普通の………男だったかな?女だったのかな?よく思い出せないです。あまりに自然に耳に入ってきたので】

 

【赤に触れたら死ぬとうのは、どんな気分ですか】

【いや………あまりにもそれを意識して生きてきたことがないので、ただただ恐怖です。無意識にやってしまいそうで】

 

【無意識に?】

【あまりにも普通にやってきたことで………例えば会話で言うとタメ口をしたとたんに死ぬとか、そんな感じです】

 

【呪いを受けてから気をつけていることは】

【………赤を踏まないことですね。触るのは気をつけれますが、踏むのはなかなか気づかない】

 

【靴を履いてるのでは】

【自分から物体を触れに行くのがダメなのかなと。事実ここの赤いライトは効果ありませんでしたし】

 

 

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根性とはこういうことか。私にはない。

インリンは自分を死地においてこの作品を撮っている。

登録者数なんてそんなものと思うけど、彼女?には命に勝ることなんだろうな。

 

 

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不意にSNSの着信音が鳴った

 

 

「はいはいはい!ゆりりーん♡寂しかったよー♡

どうしてたのー♡ウンウン♡

今晩………ある?ありえる?

わ^^^^^^^^♡」

 

 

館山がガチで引いていた。

 

 

「そうそうそう苔!コケ!………ほーう。なるほど。んじゃねバイ」

 

「切り方ひどいですね」

 

「苔で気になることがある。ちょっとゆり子のとこ行ってくるよっ」

 

「ゆり子さんって何者なんですか」

 

「図書館の職員だよ。司書。国家資格。本の虫さっ。本に載ってること全てがネットで見れるわけではないのだよっ。んじゃ後はお若いもの同士で。バーイ。明日は遠出するかもよっー」

 

インリンはそう言っていそいそと帰って行った。

 

 

「ほんと騒がしい子………」

「ああ」

 

 

「大丈夫?」

「ああ」

 

 

 

「………震えているの?」

 

 

 

(つづく)