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(あらすじ)

 

恋人:小野寺真也を交通事故で失った犬立道代は、その遺体の傷に違和感を感じていた。

 

事故当時あるはずのない鋭利な刃物のような物で、腹を縦に綺麗に掻っ捌かれていたからだ。

 

道代は恋人のお通夜に参加する。

そこに現れた弟:小野寺修也は「兄は人間以外の何かに殺された」と告げる。

 

T字路ではすでに死因は交通事故であるのにも関わらず、男性二人、女性一人、犬一匹が何故か腹を掻っ捌かれていた。

 

疑念を拭えない道代は修也と、捜査を外された刑事、館山恭一郎とT字路で待ち合わせる。

 

館山の部下、吉岡川乃もまた自宅マンションのエレベーターで心臓麻痺を起こし死んでいた。

 

 

 

 

………………………✂️………………………

 

 

 

 

 

 

雨の降る午後の見通しの良い広いT字路。

左右には土砂崩れを防ぐ為の斜めに張ったコンクリートと鉄柵、ワイヤーがある。

 

 

それらを包む様に雑木林が広がっている。

そしてそこに押しつぶされたように背が低く、苔むした六地蔵が赤い前掛けをつけて並んでいる。

 

 

ここで真也さんは死んだんだな。

どうしてこんな山道を通って通勤していたのだろうか。

多分………。足を鍛えたかったのだろうな。

 

 

私と真也さんの弟、小野寺修也は、刑事の館山恭一郎を六地蔵の前で待っていた。

 

 

しばらくして黒塗りの一台のセダンがやってきて、黒服の背の高い男が降りてきた。

 

黒髪のミディアムにパーマをかけていて端正な顔立ち。

 

目は切れ長で唇も薄い、ああ、これはずっとモテてきた男なんだろうなと思った。

 

 

トランクから傘を取り出し、挿してこちらへやってきた

「お待たせしてすみません。館山恭一郎といいます」

 

 

「タテちゃん。ありがとう。こちらは兄の恋人、犬立道代さんです」

「犬立です。よろしくお願いします」

 

 

「さっ。小野寺真也さんの映像を見ますか………こっち来てください、うん。雨は木で防げますね」

そう言って館山恭一郎は六地蔵?の後ろに回り込んだ。

 

 

「あ、ちょっと、それって罰当たりなんじゃ」

「はは、信心深いんですね。ここはですね、監視カメラの真下です。ほら」

 

 

「そうですね」

「このT路で真也さんは亡くなった」

 

 

「すいません、小さなタブレットで。ほらこれが真也さんの最後の映像です。………再生して大丈夫ですか?結構ショックな映像ですよ。2トントラックにドッカーンって跳ねらちゃってる訳ですから」

 

 

彼の物言いは少し嫌な感じがした。他人事のよう。実際他人なんだが。

「お願いします」

 

 

「ここから………。よーく良くみてください。真也さんはこのT字路を自転車で曲がろうとして、急に立ち止まります。耳に手を当てています。多分、何かが聞こえたのでしょう。

 

 

ここで真也さんはそばにある六地蔵に目を落とします。ここからです。真也さんはT字路を振り返り、何かを発見したような動作をします。

 

 

そしてそのままT字路の真ん中に進み、何かを拾い上げようとしていたところを、バン。2トントラックに跳ねられ絶命します。直接の死因は頚椎部の失血性ショックです。………首が半分もげたと言うことです」

 

 

私は動悸が収まらなくなった、胃の中のものが口の中まで上がってきている。吐きたい。吐きたい。

 

 

「で、問題はそこではなく………」

「おい」

 

 

「なに」

「そんな他人行儀な、赤の他人みたいなというか、兄をモノみたいにした言い方ないだろ」

 

 

「お前が頼んだんだろうが。やり方にまでケチつけるな」

「彼女にとっては結婚を約束した恋人の最後だぞ?ただの死体みたいに言うな」

 

 

「………わかった。だが仕事柄察してくれ」

 

 

弟は………修也さんは私よりも悲しいだろう。でも今は私を見ていてくれたんだな。

 

 

「真也さんは何かを拾おうとした。だけど鑑識では何も出てこなかった。犬立さん、事情聴取で聞かれたでしょう。彼が指輪かピアスをしていなかったどうか」

 

「はい。どちらもしていませんでした。」

 

 

「………。ここからはねられた瞬間を拡大してスロー再生します。いいですか?ここまで見るのはちょっと抵抗があると思いますが」

「いえ、どうも腑に落ちません。お願いします」

 

 

「T字路の真ん中で何かをつまんで拾って肩より上に持ち上げた。やはり貴金属か石を眺めているように見えますね。もしくは布、テープ類をつまむ様な姿勢」

「ここでトラックがくる」

 

 

「衝突の衝撃で頭が半分後ろへぶら下がっています。そのまま体を捻って身体が前輪、後輪に巻き込まれ吹き飛ばされる。………お二人方、よく分かったでしょう」

「わかります」

「うん」

 

 

「この一連の映像を見ても、溝落ちから性器の上まで綺麗にスッパリと、腹を切り裂かれる要素は全くない」

「………」

「この前の犠牲者三人も同じ様な傷があったそうです。俺は映像見れませんでしたが」

 

 

 

(なんだ?何が起こってるの???)

 

 

 

「で、ですね。真也さんが亡くなられた日、俺の部下の吉岡川乃も亡くなった。自宅マンションのエレベーターを降りる時、心臓麻痺で。腹は裂けていませんでしたが」

 

「何か関連づけるものはあるんですか?」

 

 

 

「吉岡もね………。ここからの帰り道、何かを聞いたって言ってたんですよ」

 

 

 

 

(つづく)