(あらすじ)
恋人:小野寺真也を交通事故で失った犬立道代は、その遺体の傷に違和感を感じていた。
事故当時あるはずのない鋭利な刃物のような物で、腹を縦に綺麗に掻っ捌かれていたからだ。
道代は恋人のお通夜に参加する。
そこに現れた弟:小野寺修也は「兄は人間以外の何かに殺された」と告げる。
T字路ではすでに死因は交通事故であるのにも関わらず、男性二人、女性一人、犬一匹が何故か腹を掻っ捌かれていた。
疑念を拭えない道代は修也と、捜査を外された刑事、館山恭一郎とT字路で待ち合わせる。
館山の部下、吉岡川乃もまた自宅マンションのエレベーターで心臓麻痺を起こし死んでいた。
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雨の降る午後の見通しの良い広いT字路。
左右には土砂崩れを防ぐ為の斜めに張ったコンクリートと鉄柵、ワイヤーがある。
それらを包む様に雑木林が広がっている。
そしてそこに押しつぶされたように背が低く、苔むした六地蔵が赤い前掛けをつけて並んでいる。
ここで真也さんは死んだんだな。
どうしてこんな山道を通って通勤していたのだろうか。
多分………。足を鍛えたかったのだろうな。
私と真也さんの弟、小野寺修也は、刑事の館山恭一郎を六地蔵の前で待っていた。
しばらくして黒塗りの一台のセダンがやってきて、黒服の背の高い男が降りてきた。
黒髪のミディアムにパーマをかけていて端正な顔立ち。
目は切れ長で唇も薄い、ああ、これはずっとモテてきた男なんだろうなと思った。
トランクから傘を取り出し、挿してこちらへやってきた
「お待たせしてすみません。館山恭一郎といいます」
「タテちゃん。ありがとう。こちらは兄の恋人、犬立道代さんです」
「犬立です。よろしくお願いします」
「さっ。小野寺真也さんの映像を見ますか………こっち来てください、うん。雨は木で防げますね」
そう言って館山恭一郎は六地蔵?の後ろに回り込んだ。
「あ、ちょっと、それって罰当たりなんじゃ」
「はは、信心深いんですね。ここはですね、監視カメラの真下です。ほら」
「そうですね」
「このT路で真也さんは亡くなった」
「すいません、小さなタブレットで。ほらこれが真也さんの最後の映像です。………再生して大丈夫ですか?結構ショックな映像ですよ。2トントラックにドッカーンって跳ねらちゃってる訳ですから」
彼の物言いは少し嫌な感じがした。他人事のよう。実際他人なんだが。
「お願いします」
「ここから………。よーく良くみてください。真也さんはこのT字路を自転車で曲がろうとして、急に立ち止まります。耳に手を当てています。多分、何かが聞こえたのでしょう。
ここで真也さんはそばにある六地蔵に目を落とします。ここからです。真也さんはT字路を振り返り、何かを発見したような動作をします。
そしてそのままT字路の真ん中に進み、何かを拾い上げようとしていたところを、バン。2トントラックに跳ねられ絶命します。直接の死因は頚椎部の失血性ショックです。………首が半分もげたと言うことです」
私は動悸が収まらなくなった、胃の中のものが口の中まで上がってきている。吐きたい。吐きたい。
「で、問題はそこではなく………」
「おい」
「なに」
「そんな他人行儀な、赤の他人みたいなというか、兄をモノみたいにした言い方ないだろ」
「お前が頼んだんだろうが。やり方にまでケチつけるな」
「彼女にとっては結婚を約束した恋人の最後だぞ?ただの死体みたいに言うな」
「………わかった。だが仕事柄察してくれ」
弟は………修也さんは私よりも悲しいだろう。でも今は私を見ていてくれたんだな。
「真也さんは何かを拾おうとした。だけど鑑識では何も出てこなかった。犬立さん、事情聴取で聞かれたでしょう。彼が指輪かピアスをしていなかったどうか」
「はい。どちらもしていませんでした。」
「………。ここからはねられた瞬間を拡大してスロー再生します。いいですか?ここまで見るのはちょっと抵抗があると思いますが」
「いえ、どうも腑に落ちません。お願いします」
「T字路の真ん中で何かをつまんで拾って肩より上に持ち上げた。やはり貴金属か石を眺めているように見えますね。もしくは布、テープ類をつまむ様な姿勢」
「ここでトラックがくる」
「衝突の衝撃で頭が半分後ろへぶら下がっています。そのまま体を捻って身体が前輪、後輪に巻き込まれ吹き飛ばされる。………お二人方、よく分かったでしょう」
「わかります」
「うん」
「この一連の映像を見ても、溝落ちから性器の上まで綺麗にスッパリと、腹を切り裂かれる要素は全くない」
「………」
「この前の犠牲者三人も同じ様な傷があったそうです。俺は映像見れませんでしたが」
(なんだ?何が起こってるの???)
「で、ですね。真也さんが亡くなられた日、俺の部下の吉岡川乃も亡くなった。自宅マンションのエレベーターを降りる時、心臓麻痺で。腹は裂けていませんでしたが」
「何か関連づけるものはあるんですか?」
「吉岡もね………。ここからの帰り道、何かを聞いたって言ってたんですよ」
(つづく)