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(あらすじ)

 

恋人:小野寺真也を交通事故で失った犬立道代はその遺体の傷に違和感を感じていた。

事故当時あるはずのない鋭利な刃物のような物で、腹を縦に綺麗に掻っ捌かれていたからだ。

 

道代は恋人のお通夜に参加する。

そこに現れた弟:小野寺修也は「兄は人間以外の何かに殺された」と告げる。

 

 

 

 

真也さんのお通夜。

そこで長かった髪を剃り上げ、気のいい坊さんみたいになった弟、修也さんに声をかけられた。

 

彼が放った言葉は私を混乱させた。

 

 

「兄は人間以外の何かに殺された」

 

 

「え?」

 

 

「蔵の方でお話しましょう」

「はい」

 

 

向かったのはいわゆる酒蔵ではなく、旧家によくある「蔵」だった。

中は広く物が乱雑に積み上げられており、灯油ランプを焚いても部屋の四隅はよく見えなかった。

 

 

修也さんはその暗く広い蔵を、梯子で登って行った。

 

 

「気をつけてください」

「どこまで登るんですか」

 

 

「すぐです。ほらここ」

 

 

この蔵の2階に当たる4、5畳くらいの板間に私たちは正座して面と向かった。

格子状の窓、といってもガラスは嵌まっているが、半月が見えた。

 

 

私はこのよく知らない恋人の遺族と、こんな蔵の二階で話すことが不気味だった。

今ここで「俺がやった」と言われても不思議じゃない雰囲気だ。

 

 

またもや胃の中のものが逆流し、もう一度吐きたくなってきた。

弟本人は整然として月を眺めていた。

 

 

この人は私の様子なんてさっぱり把握していない。

ほんと活字を通してでしか世界を見ていないのかと感じた。

 

 

「どうです、隠れ家みたいでしょう。ここは子供の頃、よく兄と遊んでいた板間です」

「そうですか。私にはよくわかりませんが。それでさっき、人以外………」

 

 

「………ズバリと言うとですね、あのT字路、この一ヶ月で兄を含めて4人死んでいます」

「えっ………。刑事さんに事故が多いって聞いてはいましたけど、4人も死んでるんですか??」

 

 

「そうなんです。これは友人の刑事に聞いたんです。あまりに変な死に方なので報道規制を敷いていると」

「交通事故で??」

 

 

「これは貴方の耳にも入っていると思いますが、あそこで死んだ人間はみんな腹を縦に掻っ捌かれています。犬も一匹です」

「全員ですか」

 

 

「直接の死因、致命傷が事故によるものだとはいえ、こういう不可思議な傷が全員にあると言うことは誰だって他殺、人の仕業ではないことはわかります」

「そうですね………ワンちゃんまで?」

 

 

「明後日、一緒にあそこへ行きましょう。話に出ていた刑事もきます」

「えと、報道規制が敷かれているのに刑事さんが?」

 

 

「彼は捜査から外されました」

「どうしてですか?」

 

 

「それは 明後日、本人に聞きましょう」

「もう全部オープンでいきませんか?私だって頭を整理する時間がいります」

 

 

「そうですね………オープンに行きましょうか。刑事の名は館山恭一郎。実は兄が亡くなった日、彼の部下の女刑事も亡くなっているんです」

「………事故ですか。そんな1日に何度も」

 

 

「いえ、館山の部下、吉岡川乃はあのT字路捜査の帰り、自宅マンションのエレベーター内で亡くなりました」

「え?」

 

 

「心臓麻痺でした。自宅階で降りる時、頭から倒れ込こんだようです。腹は裂かれていません。館山が監視カメラの映像を持っています」

「それって………」

 

 

「館山は感情的になり呪いの類の話を持ち出して、捜査部長に詰め寄ったみたいですね。それで捜査から外されました」

 

 

 

「監視カメラ………見たいですね………もう5人も死んでる」

 

 

 

 

 

(つづく)