真也さんのお通夜。
私はショックと持病の逆流性食道炎で立ってるのもやっとだった。
受付ではかなり待たされて、その間にトイレで一度吐いた。
このような人の集まりも個人の人柄とかとは言うが、真也さんの場合は実家が酒蔵なため従業員やら顧客やらでいっぱいの様子だった。
事実、真也さんは酒蔵を継がなかった。
随分と揉めたらしいが、ジムトレーナーであり元ボディビル日本一の彼の肉体を見れば、家族も引き下がったのであろう。
私ならそんなムキムキが作った日本酒は飲みたくない。
酒蔵は弟が継ぐことになった。このまた弟が高校生の頃から文才があり、新人賞を経て大手出版社で出版の話もあった。でも真也さんのせいで泣く泣く諦めた。
まあ泣く泣くと言っても、本人が一つのことしか、できなかったからというのもあった。両親からは副業でやっても良いと言われていた。
なのでこの兄:真也さんと、弟:修也さんはとても仲が悪い。
一度東京のコーヒーチェーン店でテーブルを囲んだが、二人ともまるでしゃべらない。
私が真也さんに話しかけると真也さんは不機嫌そうに返事をする。
それを聞いて修也さんは腕を組んで壁を見、歯を剥き出しにする。
私は怒った時に歯を剥き出しにする人の気が知れない。
私たちが野生だった頃の名残なんだろうが、見てても怖くないし滑稽にしか見えない。
でもまあそれを除くと修也さんは立派な方だったが、やはり文学の道は兄に閉ざされたのだと思っているようだ。
そう思い込みたいところもあるのだろうけど。気持ちはわかる。
どちらかと言えば真也さんのが子供だ。
でもあの磨き抜かれた身体と、日本一を獲ったという事実が、彼の心を鋼にさせていた。
そんなことを考えていると、唐突に声をかけられた。
「道代さん」
「はい、あ………」
「犬立道代さんですよね」
「そうです」
「お久しぶりですね。小野寺修也です。この度は兄のことで。ご不便かけます」
「いえいえ………お悔やみ申し上げます。一瞬誰だか分かりませんでした」
「びっくりしたでしょう。坊主にしました。酒蔵で働くには涼しくて良いです。あれ、笑ってます?」
「………すみません。だって凄くお似合いで。ごめんなさい」
「ははは、みんな笑われます。お気にせずに。で、あの………」
「何ですか?」
「実は兄の事で話したいことがあるんです。受付の方はこちらでやっておきますから、ちょっと蔵の方で話せませんか」
「いいですけど………何ですか、何だか怖い」
「んー。………こんなこと、道代さんにしか言えないのですが」
「はい」
「兄は人間以外の何かに殺された」