何だろう。
このノートに書いてあることは。
重度の記憶障害?
私の記憶が毎日、無くなっている?
誰かを探せ?そんな余裕なんかないよ。
高石?医師が来たら全て話そう。
私たちは私たちの自分勝手な記憶と日記に振り回されている。
「今日は顔色がいいですね」
「………先生、私はノートをつけているようです」
「知っています」
「私は記憶障害ですか?」
「………貴方は交通事故に遭われました」
「………??」
「私も最初は事故のショックよる一時的な記憶障害と思いましたが、どうも少し様子が違うようです」
「はっきり言って欲しいです」
「こればかりは………何とも言い難いですが………事故以前に記憶障害を持っていた可能性もあります」
私は狼狽し、鼻をすすって宙を見上げた。
受け入れなければいけない残酷が、これからも毎日の様に、1から私に頬に降り注ぐ。私の心はもう元通りにはならない。
これからも毎日、記憶が消え、誰のことも、何もかも、忘れる日々が続いて行くのか。私はいつからおかしくなったの?
少し前?
あれ?
ふと、点滴パックが目に入った。
パックの中に二足歩行のワニがいた。
レディースエーンドジェントルマン!!
そこの病んだキミ!
気ーづいちゃったぁあ??
世界が自分の思い通りになると思ってたぁ??
時間がキミの思う通りに流れると思ってた??
のんのんのん。
誰が決めたか、よく分からない病気より、コチラにおいで。
気づいちゃったキミを、ビッククランチ踏んで四次元立方体にご招待♪
点から線、そして立方体。
一次元、二次元、三次元………。
そっから跳んで、四次元立方体………学校で習わなかったろ?
さーてキミを超次元国家、ブラトニアにご招待♪
ほんの数人、この国の存在に気づいた学者がいるけど、みーんな入国すらできなかった。
キミは一秒前に生まれ、現在を生き、そして一秒後に死に、二秒前にまた生まれる。
完璧な整合性を持つ過去の情報をインプットされた上で、1秒前に生まれたとしたら、誰が時間軸の一方性を証明できようか。
誰が時間軸の双方向性、過去への無自覚なタイムスリップを認識できようか。
時間とは人類が生み出した大いなる幻想だと、この『現在の』ワニが言うよ。
認識できる現在は、時間の最小単位よりもっともっと小さい。
過去も未来も、現在の自分が認識している刹那に過ぎないの!
さて、香織ちゃん!
キミの言う『誰か』は、今、ブラトニアにいる。
このワニ皮みたいな手を握っておくれ。
そして、いざ行かん。時間の外側の世界へ。
スリッパは履いてきてね。
ノートも忘れずにね。
さあ!
(つづく)