ショートストーリーの3です
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深夜の川の上流。
二つの小さなテントと、弱々しい焚き火。
そこに円を描くように横になっている5人の男女。
4人しか乗れない軽自動車で、4人しかメンバーがいない大学の釣りバカ☆サークルだけで清流へ釣りに来たのに、
焚き火を始めたら何故か5人に増えていた。誰が増えたのか、目的が何なのかはわからない。
念の為、包丁などの凶器になるものは中州の先へと投げ込んだ。
が、急に酷い睡魔が襲ってきた。
5人はうとうとしながら、焚き火を中心として、なるべく皆んなが皆んなを見渡せる陣形で横になった。
皆んなはうとうとしながら、誰かがそれぞれの枕元を回っているのに気づいた。
A治「皆んな、目の前の見えるや奴だけ見張って………ろ………」
皆んなうとうととしながら、しばらくは焚き火の音だけが聞こえていた。
ネェ。
A治「………ん?………」
あなたですよ、あなた。A治さん。
冷静な女の声。
その声は全員に聞こえた。
あなたはいつもこうやって場を仕切ってますね………皆んながそれを求めてると勝手に思いこんで。
だけど本当は皆んな、他にやる人がいないからイヤイヤあなたに従っているんですよ。あなたは皆んなの役に立ってるつもりでも、皆んなはそうは思っていない。
リーダーの格もないのにセコセコと立ち回って。皆んな陰で笑ってますよ。
社会に出たら何の役に立たないようなレベルの低いリーダーシップで、えらく悦に入ってますよね。
恥ずかしくないんですか。みじめなリーダーさん?
情けなく非力な裸の王様。可哀想に。
そう言ってその人物はA治の鼻の頭に何か水を垂らした。
A治は泣いているように見えた。
その人物は皆んなの周りを順に回っていった。
その度に声色が女、男と変わっていった。
B子さあ。
そう、お前だよ、お前。
低い男の声。
その声は全員に聞こえた。
お前はいつもA治にべったりで公認彼女みたいな顔してるけど、本人からウザがられてるって気づかね?
あいつも仕切りたがりだからイヤイヤお前にいい顔してるんだよ。ホントは気にもとめてねえよ。
あと後輩のD美とはキャラが違うから、自分はこの5人の中で気兼ねせずやっていけると思い込んでいる様だけど、無理だよなぁ?
本当はいろんなこと、嫉妬してるよなぁ?お前はD美には敵わねえよ。性格の良さも頭の良さもおっぱいもなぁ?
ただの不細工ヒロインがよぉ。調子に乗るな。
そう言ってその人物はB子の鼻の頭に何か水を垂らした。
C志さん。
あなたはいつもそうやって縁の下の力持ちみたいな顔しているけど、いつも皆んなの足を引っ張ってるだけだって気づいていますか?
いつもどっしりと構えて的確な答え出してるつもりなんでしょうけど、皆んなは考えるのが遅いなって思ってるだけですよ?
しかも出した答えも平々凡々なだけ。足引っ張ってるだけだって分かっていますか??あなたはただ単にアタマの回転が遅すぎて何も言えないだけでしょう?
縁の下のシロアリですよ。あなたは。汚らしい。
そう言ってその人物はC志の鼻の頭に何か水を垂らした。
D美よぉ。
お前はそうやっていつもインテリぶってる。本をたくさん読んだんだな?ご両親はさぞかしご立派。
でも本当はお前は皆んなのやっかいもの。知ってるぜ?お前はこのグループに入ってあげているつもりかもしれないけど、皆んなは疎ましく思ってるだけ。
皆んな口ではお前に勝てないから何も言わない。何かと鼻にかけるって腹が立っていてもな。
お情けで仲良くしてもらってるだけ。お前、賢いフリしてるけど本当は誰よりもアタマ悪いんじゃねえのーーー!?なんだその胸?
インテリ気取りのクソ豚がよぉ。臭えんだよ。
そう言ってその人物はD美の鼻の頭に何か水を垂らした。
その瞬間、泣いているように見えた彼らは急に笑い出した。そしていつの間にか顔にビニール袋が被さっている?ような状態になっていた。
皆んなの鼻に水を垂らした人物は森に向かってひざまづき声を出した。
「セキ鳩よ」
(つづく)