1話完結のホラー的な要素がある話です真顔

 

 

 

 

 

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母の仏壇が嫌いだ。

 

 

トイレに行く時その仏間を通らなければならない。

昼はまだいい。夜は最悪だ。

 

 

だって

 

写真でしか顔を見たことがないんだもの。

私が3歳の頃、死んじゃったし。

 

 

他人としか思えないもの。

残念だけど。

 

 

高2の夏、私は真夜中に仏間を通ろうとして、びっくりした。

 

仏壇の扉が開いていたのだ。

 

金箔が豆電球に照らされて鈍い光を発していた。

 

 

私はそこから何か出てくるんじゃないかと

恐怖し、後ずさりで逃げた。

 

 

そして確かに見た。

女性の手が少しだけ見えた。

畳に水が染みていた。

 

 

もう絶対、母屋のトイレには行かない。

離れのトイレにしか行かない。

漏らしたっていい。絶対行かない。

 

 

でもね。

 

 

母屋の仏壇は離れの帰りから見えるのよ。

 

 

誰かが座ってる。

誰だろう………ずぶ濡れだ。

 

 

顔は髪でほとんど見れなかった。

でも何故か?絶望しているのはわかった。

 

 

それから私は何故か、仏間を避けれなくなった。

………引っ張られる。引っ張られる。暗いところへ堕ちていく。

そういう感覚がした。

 

そしてある真夜中、仏間の近くで声が聞こえてきた。

 

 

 

「ごめんねぇ。」

 

 

 

………声は初めて聞いた。全身の毛が先立った。

私はトイレもせず、部屋に逃げ帰った。

 

 

何が怖かったか。

真後ろから声が聞こえたからだ。

そして私が立っている床が水浸しだったから。

 

 

それ以来、私は水分補給をかなり減らした。

夜なんて絶対、水でさえ飲まない。

 

 

   で、

 

 

あなたはだあれ?

私の部屋の隅にいる人。

そんな隙間に人間が立てるわけがない。

もう勘弁して下さい………。

 

 

どうしてそんな膨れた青い顔なの?

水で死んじゃったの?

 

 

ご先祖様か母親か………。

私を引っ張りにきたのか。

 

 

私は父の部屋で寝ることにした。

父はとても機嫌がよかった。私は本当の事を言えなかった。

 

 

言うと父は考えこんでしまうから。悲しいことを思い出すかも知れない。

その日の晩は父に酒を飲まされた。

 

 

また尿意で目が覚めた。最近トイレが近い。何でだろう。

離れのトイレに行き、母屋に戻って父の部屋で布団を被った。

 

 

しかし………あっちが………。何このタイミング。

大変だった。仕方なかった。母屋のトイレで早く処理をして布団に戻ろうとした。

 

また聞こえてきた。

 

 

「ごめんねぇ。」

 

 

床はまたびしょ濡れだった。

 

仏壇から出てきたのは、誰?

夜中に仏間に座っていた人は、誰?

私の部屋にいたのは、誰?

 

 

今、後ろにいる人誰よ………。

 

 

「もう勘弁してください。お願いします。」

 

後の何かは、喉がない人の様な詰まった息を繰り返している。

 

 

「ゴメンネ、キョ」

 

私は震えながら、横目で見た。

 

………びしょ濡れで背の低い、青色の人間がいた。

服はぼろぼろだった。

 

 

骨がガタガタになったのか、首がおかしな方向へ曲がってる。

 

青くむくんだ身体はあちこちアザみたいに腐っていた。

左肘から下が無かった。

 

目は唯の穴だった。

 

 

「ひっひ引きこまないで!!」

私はガタガタ震えた。

 

 

「………うん。違うの。」

青色の人間は喋った。

 

 

??

 

 

「母親が出来なくてごめんね。こんな姿、見せたくなかったけど、

どうしても貴方にひとめ会いたかった。ごめんね………。」

 

 

そう言って母親は小さな水となって、びしょ濡れの廊下に崩れ落ちた。

 

 

それから仏壇は何も言ってこなくなった。

………そして私は今更、夜は必ず仏壇を通るようにしてる。

 

 

散々逃げたご先祖様へのお経も、父と並んでするようになった。

 

 

よくよく考えれば簡単に分かった事だ。

バカなことを言った。

 

 

こんな歪な方法でしか私たちは繋がれなかったのに。

 

 

 

 

 

お母さん。私、悲しいよ。