お暑いのでどうぞ指差し
 

1話完結のホラーです!!不安

耐性のない方はご遠慮ください。

 

 

 

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ドン!ドン!

 

 

単身の集合住宅に引っ越した。

建物は綺麗で部屋も清潔、そして6畳のロフトまでついている。

一目惚れ。早速、引っ越した。

 

 

でも引っ越す前は分からなかった。

隣の住人がロクな奴じゃないのだ。

顔を見た事はない。

 

 

ただ、こっちが音を立てる度、壁を叩いてくるのだ。

映画を見ている時。電話をしている時。友人を招いた時。

僕もまあこんなにも壁が薄いことにはびっくりした。

 

 

でもこちらのやってることは、日常的に当たり前の部類のことじゃないか。

夜中の0時に騒いでる訳でもあるまいし。

 

 

不動産会社に電話した。

えらく冴えない背が低くて頭の大きい男が、汗を拭きながら僕の部屋にやってきた。

 

 

「伊藤と申します。私は本来事務方なのですが、社長と営業マンに行ってこいと言われまして。交渉事は不得意ですが、頑張りますのでよろしくお願い致します」

 

 

「山城と申します。よろしくお願いします。さ、行きますか?」

「んー。そうですね。えーと。あれ?お隣住んでませんよ」

「ええっ。そりゃないです。現に壁を叩かれてるわけですから」

「んー。まあ行ってみましょう」

 

 

隣のインターホンを押した。音が鳴ってるのはわかる。

でも出てこない。留守なのだろうか。

 

 

「んー。あれ?鍵かかってないですね」

「ええ?」

 

「んー。どなたかいませんかー?管理会社の者ですがー?すみませーん。………居ないみたいですね。そりゃ賃貸契約が存在してませんからね。無人のはずです」

 

「おっしゃってる事はわかりますが、こちらは実際に被害を受けてるんです。このまま引き下がれません」

「んー。この部屋は賃貸契約が存在しませんので私ども社の者が立ち入る事に問題はありません」

 

「じゃあ、中に入りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔した。

 

 

 

ほんっと後悔した。

小学生の時、昼間やってた心霊番組。

あんな経験だけは人生でしたくないと思ってた。

 

 

だから………後悔した。

 

 

壁一面、赤い手形でいっぱいだった。

 

 

そして………?

そのうちの幾つかは、まだ血液が垂れていた。

ついさっきまで、居た。ということだ。

 

 

だからすぐ分かった。

真後ろにいる。

不動産会社の伊藤も、それに気づいている。

 

 

「んー。まあ無人ですね。山城さん、ちょっと喫茶店で休みましょう」

僕らは急いで部屋を出た。

 

 

僕は喫茶店でカフェオレを頼んだ。

伊藤は震えた指で煙草に火をつけた。

 

 

「………山城さんさっき床を見ましたか?」

「………いえ、壁で精一杯でした」

 

 

「………私と山城さんの足の間にね、手が出ていました。二の腕までね。あれに掴まれたらもう帰れないと思ったので急いで退出しました」

 

 

「お宅の会社はこれをわかっていたんですか」

「いえ、私はわかっていませんでした。憤りを感じます。これは営業マンの仕事です。私に言ってくる時点でおかしいとは思ってましたが………会社に電話してみます」

 

 

『もしもし、伊藤です。見ましたよ!どういうことですか?屋代さん?辞めちゃいましたよね。これでですか?何個?そんなもん数えられませんよ。壁全部ですよ。警察?何でですか。わかりました。代わります』

 

 

「山城さん、ウチの社長がお話したいと」

 

 

『山城様ですか。まずは謝罪させて頂きます。あそこのアレは、最初ひとつでした。しかし警察を呼びました。不法侵入になりますので。

 

でもね………警官が来ている間だけ消えるんですよ。アレが。写真に撮っても写りません。

 

あの部屋は竣工以来、人は亡くなっていません。病死も自殺も事故死もありません。

 

だからもうどうしようもないんです。ですが、貴方様の為にも、引っ越しをお勧めします。

 

そして今、貴方様が住んでいる部屋はもう誰にも貸しません。

全ての費用は当社で持ちますので、早く………多分あの部屋にはもう叩く部分がない。

 

だからどうなるか私共も分からないのです………』

 

 

引っ越した。駅まで遠くなったし、冴えないマンションだ。

しかし敷金、礼金、火災保険、引っ越し代、

そして、半年先まで家賃を出してくれる。

 

 

………見たくないモノを見てしまったが、忘れよう。

もういいや、それよりサッカーはどうなっただろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ………?何あの赤いの。

 

 

 

 

 

 

(2025/08/02加筆)