西部の男と人 | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

1962年6月に発行された勁文社のソノシートに掲載されている「ウエスタン男番付表」によると、東の横綱はゲーリー・クーパーとなっています。西はもちろんジョン・ウェイン。62年といえば既にクーパーは亡くなっているのですが、西部劇スターとして根強い人気があったことがわかります。

デビュー当時は純粋朴訥なキャラクターだけの大根役者でしたが、『ヴァージニアン』によってクーパー・スタイルが確立し、西部劇の“芝居”が身についてきたようです。そして、『西部の男』によって西部劇演技が完成します。

『ヴァージニアン』についてはココヘ⇒落日の決闘とヴァージニアン | 懐古趣味親爺のブログ (ameblo.jp)

 

『西部の男』(1940年/監督:ウィリアム・ワイラー)は、1880年代のテキサスを舞台に、男の友情と対決を描いた作品。

牧童と農民が対立している町に、馬泥棒の容疑で流れ者のコール・ハーデン(ゲーリー・クーパー)が捕えられてきます。声高に無罪を叫ぶわけでなく、颯爽と馬に揺られて登場。酒場で裁判にかけられ、陪審員が審議する間、牧童たちのボスで町の実力者ロイ・ビーン判事(ウォルター・ブレナン)が女優リリー・ラングトリー(リリアン・ボイド)に憧れていると知ったコールは、リリーの髪の毛を持っていると偽り、判決を保留させます。

カウンター越しにブレナンとクーパーが会話するのですが、ブレナンの巧いこと。この作品でブレナンはアカデミー助演男優賞を受賞。それに対してクーパーは、地の演技で対抗。セリフよりも何気ない仕種で心の動きを表現しています。

やがて、酒場にコールに馬を売った男(トム・タイラー)が出現。捕まえて自白させようとするコールに対して、ロイ・ビーンは拳銃で男をズドン。コールは無罪が証明され、カリフォルニアに旅立ちますが、途中で立ち寄ったジェーンエレン(ドリス・ダヴェンポート)の家で農民たちが判事をリンチする計画を知ります。ドリス・ダヴェンポートという女優さん、明るく勝気で丸顔のところは東映時代劇の丘さとみのような感じ。

コールは両者を和解させ、農民に平和をもたらします。そしてビーンと友情が芽生えるのですが、「昔、ガラガラ蛇をペットにしていたが、背中だけは見せなかった」と言って、油断はしないということをビーンに告げます。しかし、ビーンは感謝祭の日に牧童たちを使って農民を焼き討ち。ジェーンエレンの父親が殺され、怒ったコールはビーンと対決するためにデュピティ・マーシャル(連邦保安官補)になります。ジョン・ウェインが“アメリカの正義”と云われるのに対して、クーパーが“アメリカの良心”と云われるのは、法にのっとる態度を貫くところにあるのでしょう。

巡業にやってきたリリー・ラングトリーが出演する劇場でコールはビーンと決闘して撃ち倒します。瀕死のビーンを抱き起し、リリーに会わせてやる友情に嫌味がないのがクーパーの魅力です。これぞ、“罪を憎んで、人を憎まず”ですな。

『西部の男』は戦前の作品ですが、日本で公開されたのは戦後の1951年でした。1953年にリバイバル上映された『平原児』(1936年/監督:セシル・B・デミル)と『西部の男』により、戦後の西部劇ファンもクーパーの虜になったんですね。

 

『西部の人』(1958年/監督:アンソニー・マン)は、学校の教師を雇うために町民から預かった金を無法者の一味に奪われた主人公(ゲーリー・クーパー)が、奪った一味と対決する物語。主人公は元無法者で、一味の首領が20年前に一緒に悪事を働いていた叔父(リー・J・コッブ)という骨肉争う内容は、アンソニー・マンらしい西部劇です。

列車が燃料補給のために停車した時、列車強盗が襲い、応戦しながら列車は急いで発車。金が入っていたクーパーのカバンが盗まれ、外に出ていたクーパー、詐欺師のアーサー・オコンネル、酒場の歌手ジュリー・ロンドンの3人がとり残されます。列車に乗っていた客はたくさんいるのに、この辺はかなり適当な演出。クーパーがオコンネルとロンドンを連れて廃家に行ったのは、休むためなのか盗まれた金を追っていったのか曖昧だし、オコンネルがクーパーを庇って無法者のジャック・ロードに撃たれるのも、とってつけた感じで感心しません。脚本が今イチ杜撰です。

ジャック・ロードはコッブに撃ち殺され、クーパーは仲間になる風を装って、銀行襲撃に出発し、ゴーストタウンでロイヤル・ダノ、ロバート・ウェルク、ジョン・デナーと一人ずつ倒していきます。最後は留守中にロンドンを犯したコッブを撃ち殺して悪縁を断ってエンド。

風景描写などに見るべきところはありますが、クーパーは齢をとりすぎておりキャラにあっていません。叔父役のコッブの方が実年齢ではクーパーより10歳も若いんですよ。ジュリー・ロンドンが出演しているのに歌うシーンはないし、不満の残る作品でした。クレジットに“Song by Bobby Troup”とあり、ロンドンの夫トループが主題歌の作曲をしており、ロンドンが歌っているレコードがあります。

題名は似ていても、『西部の男』とは、“月とスッポン”で~す。