ひとは泣いたり悲しんだり喜んだりする。
このような情動はどこからくるのであろうか。

1884年に提唱されたジェームズ・ランゲ説が有名である。
これは生理的変化が情動そのものであり、この変化が取り除かれると情動も消失するというものである。
つまり、泣くから悲しみを感じるのであって悲しいから泣くというわけではないというものである。

次に1927年にキャノン・バード説が知られるようになった。
これは生理的変化と情動は別物であるといった考えで脊髄離断を行っても動物で情動は消失しなかったといった実験に基づいている。
感覚入力は大脳皮質で受け取られその後身体に変化を引き起こす。

1930年にはベーブスの回路といった構造が示された。情動体験は帯状回皮質と情動には直接的関与がより少ない他の複数の皮質領域の活動によって決定される。そして情動体験は視床下部によって制御されている。帯状回皮質は海馬に投射し海馬は脳弓とよばれる軸索の束を通って視床下部に投射する。視床下部の作用は視床前核群で中継され皮質に投射される。
この皮質と視床下部との連絡が双方向であるということはベーブス回路がジェームズ・ランゲ説、キャノン・バード説ともに矛盾しない事を意味している。

この直後にグリューヴァーとビューシーは両側の側頭葉除去したアカゲザルが恐怖の状況に対する動物の反応に劇的な変化をもたらす事を発見した。それ以外にも視覚認知の困難、口唇傾向、性欲亢進に加えこの情動の平坦化が認められ、これは側頭葉に損傷を負った人間にも認められた。

ただ人間の情動はひとつのもので説明されるとは現在考えられてはいない。グリューヴァーとビューシーの例も含め最近では扁桃体に注目が集まっている。

特に扁桃体に認められている異常は顔の表情にある恐怖の認知の低下である。

なおそれ以外にも現在、様々な情動についての研究がすすめられておりまたの機会に述べる。
性同一性とは最近頻繁に聞く言葉であり、性同一性障害は最近のトピックでもある
これは自分が「男である」とか「女である」と思う事である。
ところでこの性同一性はどこからくるのであろうか。
生まれつき決まっているのであろうか、それとも成長するに従って学んでいくものなのだろうか。
ここに興味深い例がある。

TIME誌でAは赤ん坊だった頃に事故で電気メスで陰茎を切り取ってしまった例が特集された。
性同一性に関してはその後の人生経験や自分の解剖学的な外形をどうとらえるかで決まると考え、両親は悩んだあげくに女の子として育てることにした。
そのため、Aは性赤ん坊のうちに性転換手術を受け女の子として育てられたのだ。
しかし、Aは女の子としての生活を嫌がり成長するにつれ男性よりも女性に惹かれるようになった。
そして女性と結婚し幸せに暮らしたように思えたが38歳の時に精神的なダメージを受け自殺してしまったのである。

また、これとは別にアンドロジェン(男性ホルモン)不応症の男性は遺伝的に正常な女性と同じような外見を持つばかりでなく、女性のようにふるまう。彼らが自らの生物学的な状態について理解した時でも自らを女性とみなすのである。
ただ逆に副腎過形成の女性はアンドロジェンに多くさらされるが女性として成長していく。
アンドロジェンの有無よりも受容体の発現に左右されると考えられる。

この事からも性同一性に関しては生まれながらにして性ホルモンによって決まっているのではないかと考えられる。性ホルモンが脳に対しても活性化作用をもつことがわかっている。

しかし、ここにまた不思議な例がある。

 イギリスのアマチュアラグビー選手クリス・バーチ(26)が、練習中の事故で脳卒中を発症。意識を回復すると、 女性と婚約していたにもかかわらず、自分がゲイになったと宣言し、美容師に転職するという"変身"を遂げた。 現在は19歳の男性と同棲している。
クリスの証言によると、事故前は男性に惹かれたことなど一度もなく、ゲイの友人もいなかった。
週末は スポーツ観戦し、友人と飲むという日常を送っていたという。そんなクリスの性格が、練習中に友人の前で バック宙をしようとして失敗し、クビの怪我と脳卒中を負うという事故後、一変した。
クリスは病院に搬送され、女性のフィアンセや家族が看病しながら意識回復を不安そうに待っていたという。
だが、クリスは、目覚めた時のことをこう振り返る。
「目覚めた時にはゲイになっていたんだ。そして今もゲイの ままさ。何を言っているのか自分でも分からないが、とにかく目覚めた時すぐに違いに気付いたんだ。女性には 全く興味が持てなかった。俺は間違いなくゲイになったんだ。」

この事からある脳の部位に性を司る部位が存在するという事である。
例えばLeVayは男の同性愛者の視床下部にあるINAH-3は異性愛者の男性のものの半分しかないといった報告もある。今後、脳部位と性ホルモンとの関係の解明が今後期待される。
われわれは普段何気なく行動している。そもそも「アイスを食べたい!」だったり「遊びにいきたい!」だったりといった行動はどこから出てくるのだろうか。
この行動の動機づけについて食事についてにフォーカスをあて詳しくみていこうと思う。

摂食行動は脂肪細胞から放出されるレプチンというホルモンの低下が視床下部ニューロンによって検知されコントロールされる。
レプチンの欠乏は空腹感と摂食行動を刺激しエネルギーの消費を抑え生殖能力を抑制する。
レプチンは体脂肪が増加すると上昇し、減少すると低下する。

視床下部外側の傷は食欲不振を起こし、視床下部内側の傷は過食と肥満を引き起こす。
レプチンに対する視床下部の反応とし、摂食抑制ペプチド(α-MSH,CART)と摂食促進ペプチド(NPY,AgRP,MCH)が放出されるのである。

だがこれで全てではない。我々が食事をとりたくなる時は前回の食事の時間によって左右される。
いわゆる短期的調節だが、これは次のように説明できる。
ベースとして空腹シグナルが我々にはあるのだが食事をすることで満腹シグナルが生じる。それが空腹シグナルを抑制するのである。
満腹シグナルのうち3つは胃の膨満感、コレシストキニン、インスリンと考えられている。
具体的には食物を待っている状態ではインスリンが放出されこれにより血中グルコースレベルがわずかに下がる。この変化が脳のニューロンに感知され摂食欲求が亢進する。
食物が胃に入るとコレシストキニンなどの消化管ホルモンによってインスリン分泌はさらに刺激される。

またセロトニンはトリプトファンに由来し炭水化物の量に応じて変化するため食事によって気分高揚が起こる理由と考えられ、また食欲抑制物質でもあることは興味深い。
それゆえ脳内セロトニンレベルを上げる作用をもつ抗うつ薬は過食症の治療に有効なのである。