●中性点接地方式



(1)中性点設置の目的

 電力系統、特に特別高圧系統では電源変圧器をY結
線として、その中性点を各種の方法で接地しています。
これは中性点を接地していない場合発生するさまざま
な障害を軽減するためです。
 その主なものは、次のとおりです。

1線地絡時に健全相の電圧が上昇しますが、これを抑制
して、線路や機器の安全を確保し、かつ、絶縁レベルの
低減を図って系統全体としての経済性を向上させます。

保護継電器の動作を迅速に、かつ確実にして、事故範囲
の波及拡大防止や設備損傷の局限化とともに、1線地絡
時の系統の安定度確保、通信線への誘導障害の低減、保
安の確保などを図ります。

消弧リアクトル接地方式では、1線地絡時の地絡アーク
を自然消滅させて線路を遮断せずにそのまま電力の供給
を継続します。

(2)中性点接地方式の適用標準
 中性点接地方式の適用は、系統の電圧や、系統を構成
する送電線が架空線主体か、地中線が主体か、によって
決められます。
 これは1線地絡時の異常電圧の健全相に対する割合が
同じでも、超高圧系統ではその絶対値は極めて大きな値
であり、低減対策の系統全体に及ぼす効果は極めて大き
なものになるからです。
 また、架空線と地中線とでは電気常数に大きな相違が
あること、事故時の現象や事故点の様相にも大きな相違
があるためです。
 さらに、電路の所要絶縁耐電圧は、使用電圧が同一で
も中性点接地方式により大きく異なります。技術基準で
定められている電路の保持すべき耐電圧も、直接接地超
高圧系統では最高使用電圧の0.64倍、非接地式配電系統
では1.5倍になっています。

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(1)直接接地方式
 電源変圧器の中性点を直接に導体で接地するもので、
187kV以上の超高圧と呼ばれる電圧系統では全てこの
方式が採用されています。この方式では系統の中性点が
常時確実に大地と接続されていることから、中性点の電
位は常にほぼ一定で、1線地絡時の電位上昇は最小限に
抑えられます。1線地絡時の健全相の電圧上昇が30%以
下になる中性点接地方式を有効接地と呼ぶことがありま
すが、直接接地がこれに当たります。
 このため、系統内の機器、線路の絶縁低減の割合は大
きく、その経済的な効果は莫大であり、全ての超高圧系
統に採用される所以です。特に変圧器では段絶縁といっ
て線路側端子から中性点にかけて絶縁の程度を低減させ
ることができます。
 しかし、1線地絡時は地絡相の一相短絡になり、故障点
には数万Aの地絡電流が流れ、通信線に発生する電磁誘導
電圧が高くなり易くなります。また大電流が流れるため、
地絡時の過渡安定度が他の方式より低下します。
 このため運用上の対策として系統内の変圧器群の一部を
非接地とすることがあります。
 しかし、地絡電流が大きいことは鋭敏な保護継電器が適
用可能であり、これにより数サイクル以内で確実に故障を
遮断することで、誘導障害の継続時間を極度に短縮して
実害を大きく低減しています。

(2)抵抗接地方式
 この方式は、系統の中性点を抵抗器を通して接地する
もので我国では22kV~154kVまで最も一般的に広く
採用されています。これは地絡電流を抑制して通信線へ
の誘導障害などを防止することが目的です。中性点抵抗
の抵抗値は100Ω~900Ω程度で、1線地絡時の中性点電
流が100A~500Aくらいになるように整定されます。地
絡故障点にはこの電流と系統の対地充電電流のベクトル
和が流れます。
 地絡電流を抑制するため、地絡継電器の事故検出機能
は直接接地方式よりも低下します。これを補うため地絡
継電器として零相電圧と地絡電流を組み合わせて動作
する方式のものが多く使用されています。
 抵抗接地方式は直接接地方式と比べて1線地絡電流
が小さく、誘導障害は少ないが1線地絡時健全相の電圧
上昇は大きいので、線路や機器の絶縁レベルの低減は
できません。

(3)消弧リアクトル接地方式
 原理は中性点と大地の間にリアクトルを挿入し、その
リアクタンスを系統の対地静電容量と並列共振させること
によって零相インピーダンスを無限大にして、1線地絡時
に地絡故障電流を流さないようにするものです。このリア
クトルを消弧リアクトルといいます。
 実際には系統の対地静電容量と完全に共振させず、必ず
過補償と言って1線地絡時の消弧リアクトル電流が系統の
対地充電電流より数%大きくなるように設定します。この
系統に地絡事故が発生すると地絡相に蓄積されていた電荷
は大地へアーク放電するが、その後地絡電流はきわめて小
さく制限され、自然消弧します。地絡電流が誘導性になって
いることで、一旦消弧後の電圧回復が緩やかであることも
消弧性を高めています。
 この接地方式はほとんどか架空送電線だけで連絡構成さ
れている系統に適用されます。それは架空送電線では1線地
絡が事故原因の大きな割合を占め、しかも地絡事故は他物の
接触、雷撃によるアーク閃絡など一時的なものが多く、一旦
消弧させれば絶縁が回復することが多いからです。
 地絡保護継電器の動作は各接地方式の中で最も悪く、消弧
リアクトル動作後、数秒間事故が解消しない場合は並列に設置
した抵抗器を投入し、一時的に抵抗接地方式として保護継電器
を動作させています。
 この接地方式では通信線などへの誘導障害は小さいが、
1線地絡時の健全相の電圧上昇は抵抗接地方式と同程度であり、
系統の絶縁の低減はできません。
 また、線路停止など系統条件の変化に応じて消弧リアクトル
のタップを切り替える必要があります。さらに対地充電電流と
リアクトル電流との共振に近い状態で運転するため、異常電圧
の発生の機会が他の接地方式より多く、この対策として並列抵
抗器を常時投入しておき、1線地絡発生時にこれを開放して消
弧リアクトル接地方式にすることが行われています。

(4)補償リアクトル接地方式
 大都市では66kV~154kVの地中送電線(電力ケーブル)
で電力系統を連絡構成しています。地中送電線は架空送電線
に比べて静電容量が数10倍と大きいので、中性点接地抵抗器
で地絡時の中性点電流を制限しても地絡事故点には 大きな
充電電流がこれにベクトル的に加わります。
 このため地絡電流が大きくなり、誘導障害のおそれが生じ
るほか、地絡瞬時に対地静電容量の影響を受けて大きな過渡
突入電流が流れ、保護継電器の動作特性を低下させたりします。
この対策として中性点接地抵抗器と並列にリアクトルを設置
して地絡電流中の充電電流分を低減しています。
 この接地方式を補償リアクトル接地方式と呼びます。特に
大都市では66kV~77kV地中線が配電用変電所や、大口需要
個所への送電線として大量に布設されているため、地絡電流中
の充電電流分は大きな値になります。
 このため、この接地方式の66kV~77kV地中線系統の
電源変電所には定格電流250A~500Aの補償リアクトルが
普通母線ごとに設置されています。

(5)非接地方式
 わが国では6.6kVの配電系統は全てこの方式によっています。
1線地絡時の健全相の電圧上昇や間歇地絡などによる異常電圧の
割合は、中性点接地方式の中で最も高いのですが、系統電圧が
低いことからその絶対値は小さいこと、また、この電圧階級では
絶縁強度は機械的な所要強度から、基準絶縁強度より余裕の
あることが多いこと、また、周密な市街地内に施設されること
から通信線への誘導障害防止や保安確保を優先するためです。
 非接地方式では地絡電流は、ほぼ系統の対地充電電流だけに
なります。 さらにこの接地方式では電源変圧器の中性点を引き
出す必要がないため、△結線にできるので故障修理などのとき
V結線で運転できます。
 非接地方式と言っても完全な非接地ではなく、系統内に地絡
事故が発生したことの検知を主目的に電源変電所の母線に設置
する接地電圧変成器(EVT)の三次開放△端子に一次側中性点
~大地間換算で10kΩ程度になるような値の限流抵抗を接続
しています。これにより完全地絡時には事故点に有効電流が
400mA程度流れます。
 事故電流が小さいため、地絡保護継電器には接地電圧変成器で
検出した零相電圧と零相変流器からの零相電流による地絡方向継電器
が普通使用されます。
 受電端などでは接地電圧変成器はコンデンサ型を使用し、
また、条件が許せば 零相電流だけによる保護も可能です。

<http://www.radionikkei.jp/denki/contents/04102/ >


中性点接地方式(ちゅうせいてんせっちほうしき)とは、
電線路や電力機器の保安や絶縁の軽減などのために行われる、
変圧器の中性点の接地の方式である。

目的
雷撃によるアーク地絡などによる、電線路の異常電圧の
発生を防止する。
地絡事故時の健全相の電圧上昇を抑制し、電線路・電力機器の
絶縁を軽減する。
地絡事故時に中性点を通じて電流を流し、保護継電器が
確実に動作する電流・電圧を確保し、事故区間を早期に開放する。

方式
●直接接地
中性点を直接接地する方式である。
異常電圧の発生の可能性が小さい。
地絡事故時、健全相の対地電圧の上昇がほとんどなく、
絶縁の低減が可能である。
事故時の通信線路への誘導障害が大きいので対策が必要である。
地絡電流が大きいので、保護継電器の動作が確実である。
他の送電系統への影響を小さくするため、
高速遮断や高速再閉路が要求される。
Y結線の変圧器を使用した、
187kV以上の超高圧送電線路で用いられる。

●抵抗接地
抵抗を通じて中性点を接地する方式であり、
抵抗値により直接接地と非接地との間の性質をもつ。
保護継電器の確実な動作と、
他の送電系統への影響との兼ね合いで抵抗値を定める。
地絡事故時、抵抗値に応じた健全相の対地電圧上昇が起こる。
抵抗値を大きくすれば、
事故時の通信線路への誘導障害を小さくできる。
Y結線の変圧器を使用した、
66kV以上154kV以下の特別高圧送電線路で用いられる。

●消弧リアクトル接地
一線地絡電流を0とするため、電線路の対地静電容量と
共振するようなリアクタンスの鉄心入りの
消弧リアクトルを通じて、中性点を接地する方式である。
異常電圧の発生の可能性がある。
雷サージなどの一時的な地絡事故の場合、
早期に自己消弧し、無停電継続運転が可能となる場合が多い。
地絡事故時の電線路の電線や碍子などの支持物の損傷を
少なくできる。
事故時の通信線路への誘導障害が小さい。
運用が複雑となる。
設備費が高い。
雷による被害の多い地域の、
Y結線の変圧器を使用した、特別高圧送電線路で用いられる。

●補償リアクトル接地
事故時のケーブルの充電電流を補償するリアクトルと抵抗とを
通じて中性点を接地する方式である。
地絡事故時、事故点から遠くはなれた地点のフェランチ効果による
健全相の対地電圧上昇を抑えることができる。
対地静電容量・充電電流の大きなケーブル系統の、
Y結線の変圧器を使用した、特別高送電線路で用いられる。

●非接地
中性点を接地しない方式である。
異常電圧の発生の可能性がある。
地絡事故時、健全相の対地電圧が√3倍(相間電圧)まで上昇すること
があるので、絶縁の強化が必要である。
事故時の通信線路への誘導障害が小さい。
事故時もそのまま送電が可能である。
地絡電流が小さいので、高感度の保護継電器が必要である。
Δ結線の変圧器を使用した、短距離の高圧配電線路で用いられる。