今でこそ多くの新鋭ジャズメンがBEATLESナンバーを演奏していますが、ALFRED LION時代のBLUE NOTEで取り上げたBEATLESナンバーは僅か3曲だけでした。

 

 

MR.NATURAL / STANLEY TURRENTINE (BLUE NOTE ST-1075)

 

本作は1964年9月4日の録音ですが、長い間、お蔵入りし1970年代後半に未発表集の“LTシリーズ”の一枚として陽の目を見ました。“LTシリーズ”は冴えないジャケットとマスタリング(ラッカー・カッティング)がRVGでないこと(録音はRVG)を除けば、さすがBLUE NOTEと思わせるのに十分な素晴らしい内容でした。その問題のジャケットに往年のFRANCIS WOLFF撮影の素敵な写真を使用しTONE-POETシリーズとして再発したのが上掲盤です。お蔵入りにはそれなりの理由があるはずで、その原因は BEATLESの「CAN’T BUY ME LOVE」だと思います。メンバーはTURRENTINEにLEE MORGAN、McCOY TYNER、BOB CRANSHAW、ELVIN JONES、RAY BARRETTOとベストな選択、「MY GIRL IS JUST ENOUGH WOMAN FOR ME」や「SHIRLEY」の軽妙で小洒落た大人のジャズが続く中、最後のBEATLESナンバーは、それなりに良くアレンジされロック色を薄めていますが、やっぱり違和感が・・・。

 

当時のBLUE NOTEは傑作、優秀作を連発していましたが経営的には苦しい状態が続いていました。そんな時にLEE MORGANのジャズ・ロック調の『SIDEWINDER』が思いがけず大ヒット、オーナーのALFRED LIONも“背に腹は代えられぬ”と禁断のBEATLESナンバーへの挑戦を許可?しかし、さすがに浮いていると感じたのか“ボツ”に。この時点でBEATLESナンバーを取上げたジャズマンは他レーベルでも皆無と思われ、BLUE NOTEの先見性とともに、ジャズマン達の仕事を奪ったロック、特にBEATLESに対しての反感の強さが伺い知れます。

 

 

I WANT TO HOLD YOUR HAND / GRANT GREEN (BLUE NOTE 4202)

 

1965年3月31日の録音。HANK MOBLEY、LARRY YOUNG、GRANT GREENにELVIN JONESとBLUE NOTE最強メンバーが名を連ねているのとは裏腹にBLUE NOTEらしからぬタイトル曲と当時としては珍しかった少女の顔のアップのジャケット(それまではミュージシャン自身が写ったジャケがほとんど)が目を惹きます。以前にも記しましたが、このメンバーならと思いながらも長い間入手を躊躇した理由は偏にBEATLESナンバーが入っていたから。BEATLESをそれなりに聴き込んでからジャズに入った私ですら嫌悪感を覚えたのですから当時の硬派のジャズファン、古くからのBLUE NOTEファンのアンチ感は相当なものだったと想像できます。

 

ところが実際に聴いてみるとロックの持つ喧噪を上手く排除し、ボサノヴァ・タッチの爽やかな作品に作り換えています。他の曲も同系統・同タイプの快演ばかりで入手を躊躇したことを大いに後悔しました。

 

 

DELIGHTFULEE / LEE MORGAN (BLUE NOTE BST 84243)

 

1966年4月8日の録音。この頃になると大物ジャズマンも挙ってBEATLESナンバーを取上げるようになります。COUNT BASIEがBEATALESナンバーばかり取り上げた『BASIE’S BEATLE BAG』、BUD SHANKの『MICHELLE』らが1966年、大ヒットしたWES MONTGOMERYの『A DAY IN THE LIFE』は1967年6月の録音です。

 

YESTERDAY」でのMORGANのトランペットが奏でる主メロディの何と美しいことか!上掲のTURRENTINEの「CAN’T BUY ME LOVE」はメロディからアドリブへの繋がりに違和感がありましたが、MORGANは、ごく自然にすーっと入っていきます。それを受けるSHORTERやTYNERの演奏も素晴らしく、BEATLES JAZZとしては最高の作品です。他の曲は、この頃のMORGANのアルバムではお馴染みのカリプソ調、ジャズロック調、バラードと多彩な内容でJOE HENDERSONやMcCOY TYNERら新主流派のメンバーが良くフォローしています。

 

今では当たり前になっていることでも、先人たちが”最初の一歩”を踏み出すのには相当の覚悟と勇気が必要でした。