VERVEレーベルのBILL EVANSがRIVERSIDE時代にくらべ評価が低いのは、リズム隊がSCOTT LAFAROやPAUL MOTIANから替わったことも要因の一つですが、そもそもピアノの音が違うと感じることが最大の原因だと思います。それにはRVG(RUDY VAN GELDER)が大きく関わっていました。その辺りのことをスタジオ録音のピアノトリオを中心に検証してみました。

 

管楽器、特にテナーサックスの録音の素晴らしさで圧倒的な支持を受けていたRVGもピアノの録音に関しては不評を買うことが多く、最も顕著な例がVERVEのBILL EVANSでした。

 

 

EMPATHY(VERVE V-8497)

 

録音はRUDY VAN GELDER、プロデュースはCREED TAYLOR。DEAD-WAXに刻印がないことからRVGは録音だけでマスタリング(含むラッカー・カッティング)は行っていません。また録音場所はVAN GELDER スタジオ(ニュージャージー州・イングルウッド)ではなくニューヨークとなっています。RVGは、かねてから録音とマスタリング(カッティング)まで一貫して行いたいと述べており、実際にATLANTICやBETHLEHEM、RIVERSIDEなど録音だけ担当したレコードではRVGらしさが出ていません。録音よりマスタリング(カッティング)にRVGの真髄があることは拙ブログで過去に述べたとおりです。

 

RVGが自身のスタジオ以外での録音の上、マスタリングも行っていないせいかピアノの音は思っていた程、太くなく曲によっては繊細さも感じられます。特に「DANNY BOY」はVERVE時代を代表する秀逸な演奏。むしろ問題は「ボワン、ボワン」と締まりのないベースの音にあるように思います。他にも「GOODBYE」や「I BELIEVE IN YOU」のような素敵な演奏がある反面、EVANSのイメージにそぐわない「THE WASINGTON TWIST」のような曲を冒頭に収録したのは失敗でした。

 

 

 

TRIO 64 (VERVE V6-8578)

 

録音はBOB SIMPSON=VAL VALENTINコンビ、プロデューサーは前作同様 CREED TAYLOR。BILL EVANSのピアノはRVG録音とは全く違い繊細でキュート、曲調も明るく、もうSCOTT LAFAROを失ったショックは癒えているように感じます。EVANSのピアノの音はRIVERSIDE時代の輝きを取り戻していて、RVGを外したことは大正解でした。選曲も愛らしく、ゆったりとした曲が多くEVANSには最適で好感が持てます。

 

ただ問題はプロデュース、GARY PEACOCKとPAUL MOTIANとでインタープレイを画策したのでしょうが、基本的にBILL EVANSファンはピアノとベース、ドラムスとの三者対等のインタープレイは望んでいません。あくまでピアノ主体で、それに時折ベースが絡み、ドラムスはブラシ中心の控えめな演奏を希望しているはず。しかもGARY PEACOCKのベースはEVANSのピアノに寄り添っているかと言えば、とてもそんな風には聴こえず我が道を行く感じ。目立ち過ぎのベースの音は、もっと小さい方が良く、その点を除けば素敵なアルバムだと思います。

 

 

 

TRIO‘65(VERVE V-8613)

 

ここからRVGが録音とマスタリング(カッティング)を両方手掛けています。(DEAD-WAXにはVAN GELDER刻印)上掲2作が思うような成果を上げられなかったことにRVGは「俺に全て任せてくれ、きっと納得するレコードを作って見せる」とでも進言したのでしょうか?それはともかく、録音もマスタリング(カッティング)も任せられ、しかも録音場所はニュージャージー州・イングルウッドのVAN GELDERスタジオ。これぞ100%のRVG録音です。

 

リズム隊はRIVERSIDE後期のCHUCK ISRAELSにLARRY BUNKER、そう『 AT SHELLY’S MANNE-HOLE』と同じメンバー、さらに曲目もRIVERSIDE時代の焼き直しばかり・・・これはどういうことかと言うと録音、マスタリング(カッティング)だけが違うため、RVGの真価が問われる状況が作られたのです。

 

RVGは相当気合が入っていたと思います。オリジナル盤で聴く『TRIO’65』は音圧が高くベースやドラムスとのバランスもとても良いと思います。オンマイク録音で潰れた音になっていないか心配しましたが、思いの他良好です。では何故『TRIO‘65』の評価は低いのか?それはEVANS本人が再録曲ばかりで気が乗らず?オリジナルよりアップテンポに処理したため、片手間に弾いているかのような印象を受けるからです。またRIVERSIDE盤より繊細さに欠けるところも目立ちます。いくら録音・マスタリングが良くても中身の素材しだいということが分かる端的な例になりました。

 

 

 

INTERMODULATION / BILL EVANS AND JIM HALL (VERVE V-8655)

 

これも『TRIO’65』と同じくRVGが録音とマスタリング(カッティング)を引き受け録音場所もVAN GELDERスタジオです。UNITED ARTISTSの『UNDERCUREENT』と同じJIM HALLとのデュオですが、単に二番煎じ以外にもマイナス点が挙げられます。『UNDER~』の「SKATING IN CENTRAL PARK」や「ROMAIN」のような夢見る曲が存在しないこと。でも一番の問題は録音・マスタリングにあると思います。EVANSのピアノもJIM HALLのギターも持ち味は上品で繊細な面で、音が基本的に太いRVG録音では上手く引き出せていないように感じます。

 

 

 

A SIMPLE MATTER OF CONVICTION ( VERVE V-8675)  

 

これも上掲2作と同じくRVGがVAN GELDERスタジオを用いて録音とマスタリング(カッティング)を手掛けました。ただ『TRIO‘65』に比べると明らかにカッティング・レベルが低く、ピアノの音も潰れていてRVGの弱点をさらけだしています。ディスコグラフィー上、これがRVGにとってVERVEでの最後のBILL EVANS録音、気合を入れて作り上げた上掲2作の評価が芳しくなかった上に、多忙を極めていたため手を抜いたのか、単に不調だったのか、いずれにせよRVG録音・マスタリングのメリットは全く感じることができません。SHELLY MANNEとの再会で上掲『EMPATHY』と良く比較されますが、こちらの方がトリオとして纏まっていてピアノトリオの傑作になる要素が揃っていました。でも録音もマスタリングもダメ、残念です。

 

 

最もEVANSらしさを引き出しているのが『TRIO’64』のBOB SIMPSONの録音、RVG録音は良く言われるように出来・不出来の差が激しく『TRIO’65』は良好も、他の作品は良好とは言い難いと思います。『TRIO’65』にしてもマスタリングは素晴らしいもののEVANSが持つ繊細さは引き出すことはできておらず、太く豪快な音が魅力のRVG録音はBILL EVANSには不向きだったと言わざるを得ません。

 

 

 

最後にVERVEのBILL EVANSについて纏めてみました。

 

VERVEのBILL EVANS(抜粋)

タイトル

プロデューサー

録音技師

カッティング

EMPATHY

CREED TAYLOR

RVG

 

CONVERSATION MYSELF

CREED TAYLOR

RAY HALL- VALENTIN

 

TRIO‘64

CREED TAYLOR

SIMPSON-VALENTINE

 

TRIO’65

CREED TAYLOR

RVG- VALENTIN

RVG

TOWN HALL

CREED TAYLOR

HELEN KEANE

VAL VALENTINE

 

RVG

INTERMODURATION

CREED TAYLOR

RVG-VALENTINE

RVG

SIMPLE MATTE OF

CREED TAYLOR

RVG- VALENTIN

RVG

FURTHER CONVERSATION

HELEN KEANE

RAY HALL- VALENTIN

 

MONTREUX JAZZ FES

HELEN KEANE

PIERRE GRANDJEAN

B SCHWARZ

ALONE

HELEN KEANE

RAY HALL- VALENTIN

 

WHAT’S NEW

HELEN KEANE

RAY HALL