長いことオリジナル盤を蒐集している同好の士には、特に高価なレコードでもないのに何故か綺麗なものが見つからない、そういうレコードに限って愛聴盤という経験が少なからずあると思います。ここで取上げたレコードも過去に3枚以上購入して、ようやくチリチリ・プツプツ音に邪魔されず、気持ちよく鑑賞ができる状態のものに巡り合えました。

 

 

FIRST PLACE AGAIN / PAUL DESMOND (WARNER W 1356)

 

同じJIM HALLとのコンビでもRCA盤の研ぎ澄まされた美しさに比べると、裏ジャケにAN“AFTER HOURS” SESSIONと記載されているように寛いだミディアム・スローの名曲で構成されていてBGMとしても心地よく聞き流せます。PAUL DESMONDは DAVE BRUBECK に義理立てしてソロ・アルバムではピアノレスを通し、替りに用いたのが流麗なギターのJIM HALL、これが大正解でMODERN JAZZ QUARTETの決して出しゃばらないリズム隊とともにDESMONDの透明でリリカルなアルトを更に際立たせています。当初入手した2枚のオリジナル盤は、いずれも状態が良いように見えましたが、WARNER盤は細かな針キズにも弱いようで周回ノイズが発生・・・この繊細な音楽にノイズは厳禁です。

 

 

 

A GASSER!/ ANNIE ROSS (WORLD PACIFIC WP-1285)

 

PACIFIC JAZZのレコードはBLUE NOTEなどに比べ格段に安く、廃盤店の“壁盤”になることもART PEPPER=CHET BAKERの『PLAYBOYS』等ごく少数を除けばありません。でもジャケットも盤も完璧なものを入手しようとすると苦労すると思います。大好きなPACIFIC JAZZのANNIE ROSSの『SINGS A SONG WITH MULLIGAN』と並ぶ名作の本アルバムも何故か周回ノイズや高音部でのビリ付きがある盤ばかりで、バラードや静かな曲が多いためストレスが溜まりました。15年くらい前に念願かなってUK盤のテストプレスを入手した時も『SINGS A SONG~』はニアミントなのに、こちらは周回ノイズが発生、とことん相性が悪いと思ってあきらめかけていました。ところが海外から格安レコードのまとめ買いをした際、ほぼミント状態の『A GASSER!』が含まれていて、ようやく溜飲が下がりました。

 

 

 

 

BAGS MEETS WES / MILT JACKSON AND WES MONTGOMERY (RIVERSIDE RLP 407)

 

『FULL HOUSE』の演奏でも分かるようにWES MONTGOMERYとWYNTON KELLYのコンビだけでも強力なのに、そこにMILT JACKSONが加わればフロント陣は、ほぼ無双。リズムセクションも剛腕のSAM JONESにPHILLY JOE JONESと、こちらも最高の布陣。WESがらみで、ほぼ同じ構成のMONTGOMERY BROTHERSの演奏と比べると、この面子が如何に凄いか理解できると思います。この盤も歪んでいたり周回ノイズが発生したりとハズレばかり掴まされてきましたが、3枚目にしてようやくコンディション良好なものに出会えました。RIVERSIDEはBLUE NOTEやPRESTIGEに比べると些細なキズでも確実に音に出ます。

 

 

かつて60歳以上の方の骨董蒐集の趣味は、掛け軸、焼き物、絵画等が主流でしたが、時代・世代が変わってレコードが台頭、それもSP盤ではなくモダンジャズのLP、60年代から70年代初頭のロックのLPが蒐集の中心になりました。そのため折からのレコード・ブームもありオリジナル盤の需要は増大、加えて異常な円安で海外からの買い付けも増えているようで、状態の良いものに出会えるケースは少なくなっています。「音が良い」という理由で、長年オリジナル盤蒐集に手を染めてきましたが、高額を払わないと周回ノイズがあるような状態の良くないオリジナル盤しか入手できない現状は精神衛生上、好ましくなく、そろそろ潮時かと・・・思い始めています。