西海岸のスターから全米のスターに飛躍すべくPACIFIC JAZZからRIVERSIDEに移籍したCHET BAKER、RIVERSIDE時代の足跡をたどります。

 

 

IT COULD HAPPEN TO YOU / CHET BAKER SINGS (RIVERSIDE RLP 1120)

 

 『CHET BAKER SINGS』(PACIFIC JAZZ 1222)と対を成す、もう一枚の“CHET BAKER SINGS”。若々しいものの昼下がりの気怠さを感じさせたPACIFIC時代に比べると、これは完全に都会の“夜のしじま”のイメージです。PACIFICの『SINGS』がトランペットとヴォーカルの比率が50:50だったの対し、こちらは明らかにヴォーカルに比重を置いていて、トランぺットを封印しているトラックも複数あります。その穴を埋めているのがKENNY DREWの華麗なピアノ、PACIFIC時代のRUSS FREEMANよりDREWの方が相性が良いように思います。続編を期待できる十分なレベルだったのに、この後トランペット重視の方向に向かったのは残念でした。ベストトラックは「EVERYTHING HAPPENS TO ME」、作者のMATT DENNISも真っ青、アンニュイな大人のムードに包まれた究極の逸品です。

 

 

 

CHET BAKER IN NEW YORK(RIVERSIDE 12-281)

 

CHETのヴォーカルを含まないインストだけのアルバムでは、全ての時代を通してこれがベストだと思います。癖の強いGRIFFINの入ったクインテットとワンホーンのカルテットが交互に配置され、良いバランスを保っています。上品で洗練されたAL HAIGのピアノはPHILLY JOE JONESの刺激的なドラミングとともに西海岸出のCHET BAKERを、すっかり“5番街のCITY BOY”に変身させています。特筆すべきはBENNY GOLSON作の2曲とともに、MILES DAVISも演奏した「SOLOR」「WHEN LIGHTS ARE LOW」を取上げていること。これはMILESへの挑戦状だったのでしょうか?

 

 

 

 

CHET BAKER PLAYS THE BEST OF LERNER AND LOEWE(RIVERSIDE RLP 1152)

 

半年前に録音された『CHET』(RIVERSIDE 299)とほぼ同じメンバーによる録音。

何と言ってもMILES DAVISの『KIND OF BLUE』セッションに参加直後のBILL EVANSに衆目が集まります。他にもZOOT SIMSら一流のメンバーを集め、ミュージカル「MY FAIR LADY」を中心としたLERNER & LOEWEコンビの佳曲を取上げたアイデアは素晴らしいと思いますが、前作同様、全編ソフトムードに包まれていて一歩間違うとイージーリスニングとの謗りを免れなくなります。ただ録音はソフトムードに適したもので、特にステレオ盤は理想的な効果を発揮しています。RIVERSIDEのステレオは随分と聴いてきましたけど、これはちょっと驚きです。ちなみに録音はROY FRIRDMAN、マスタリングはJACK MATTHEWSです。

 

 

 

いろいろな可能性を試したRIVERSIDE時代でしたが、その後のCHETの動向を見るとトランペットが中心で純粋なヴォーカル・アルバムは上掲の『IT COULD HAPPEN TO YOU』が最後になってしまいました。時折、演奏の途中で独特の中性的なヴォーカルを披露してくれたものの、もっとヴォーカルに専念していれば・・・。