モダンジャズ期のアルト奏者によるブルース集。金管楽器の中ではアルトサックスが最もブルースに向いているように思います。選出に当たってはアルバム・タイトルに“BLUES”が付いているものの中から、タイトル曲だけがブルースでブルース集になっていないCANNONBALL ADDERLEYの『THEM DIRTY BLUES』やLOU DONALDSONの『BLUES WALK』等は除外しました。

 

 

 BLOWS THE BLUES / SONNY STITT(VERVE MGV 8374)

 

レコード一枚が全曲ブルースの場合、ヘヴィ過ぎて聴く前から引き気味になってしまうことが多いのですが、これはSONNY STITTがブローせず、いつにも増して控えめに吹いていることもあり、軽めの、とても好ましい作品に仕上がっています。個人的には有名な『ONLY THE BLUES』(VERVE MGV 8250)よりもワンホーンで小品が並んでいる、こちらの作品の方が好みです。バックはLOU LEVY、LEROY VINNEGAR、MEL LEWISの西海岸トリオ、全体のサウンドが重くならなかった要因は、このリズム・セクションにもありました。あまり期待していなかったレコードが予想に反して、とても良かった時はホント嬉しいですね。

 

 

 

BLUESNIK / JACKIE McLEAN (BLIE NOTE 4067)

 

McLEANには『LONG DRINK OF THE BLUES』や『STRANGE BLUES』とタイトルに"BLUES"が付いたレコードもありますが、それらはBLUES集ではありません。ブルース集というとどうしても地味に見られがち、特にBLUENOTEの4050番台前後は成熟したハードバップの名盤が目白押しのため印象が薄くなっていますが、メンバー良し、演奏良し、曲良し、渋いジャケット良しの傑作です。McLEANの他はFREDDIE HUBBARD、KENNY DREW、DOUG WATKINS、PETE LA ROCA、これだけのメンバーを揃えたら悪い内容になるはずがありません。KENNY DREWのピアノがブルースにベストマッチなのは意外でした。

 

 

 

THE RAT RACE BLUES / THE GIGI GRYCE QUINTET (NEW JAZZ 8262)

 

優れた資質を持ちながら、やや自身の才能に溺れた印象が強いGIGI GRYCE、その最たる例が、やや過剰な編曲に問題があったDONALD BYRDと組んだJAZZ LABでした。その反省かNEW JAZZの三部作ではインプロゼーション中心の素晴らしい吹きっぷりでファンの留飲を下げてくれました。三部作全てで相棒を務めているトランペットのRICHARD WILLIAMSとのコンビも素晴らしく、中でもブルース集の本作はGIGI GRYCEの最高作に相応しい内容です。JAZZ LABの印象があまり良くないため過小評価されていますがNEW JAZZの三部作は、モダンジャズの成熟期に確かな足跡を残しました。

 

 

 

THE BLUES AND THE ABSTRACT TRUTH (IMPULSE A-5)

 

ジャケットだけ見たら誰がリーダーだか分かりませんが、作編曲をOLIVER NELSONが担当しているためNELSONのリーダー作と見做すのが一般的でしょう(再発の別ジャケには明確にするため最上段にNELSONの名が・・)。 NELSONはラストの「TEENIE’S BLUES」以外はテナーサックスを吹いていて標題の「アルトサックスによる・・・」に合致しませんがERIC DOLPHYがしっかりと代役を務めています。RVG録音のため管楽器の音が良いことはもちろんですが、特筆すべきは冒頭の「STOLEN MOMENTS」のPAUL CHAMBERSのベースの音。存在感十分、でも重くなり過ぎずキレがあり、ベース録音のお手本です。BILL EVANSのピアノも、らしくありませんが綺麗に録れていて楽器全てに焦点が当たっている(パン・フォーカス的な)COLUMBIAのような素晴らしい録音で、ピン・フォーカス的なBLUE NOTEとは明らかな違いがあります。これはプロデューサーがCREED TAYLORであることと大いに関係していると思います。なお続編の『MORE BLUES AND THE ABSTRACT TRUTH』は全く異なるメンバー(PHIL WOODSやTHAD JONESら)も一流どころでしたがERIC DOLPHYのようなインパクトはなく、また「STOLEN MOMENTS」に比肩する”キメ曲”がないため、二番煎じとの誹りを免れることはできませんでした。

*単にRVG録音と記載していますが、ここでの録音はマスタリングも含んだ一連の作業のこと。

 

OLIVER NELSONがリーダーとはっきり分かる再発ジャケ

 

モダンジャズ期のブルースは本物のブルースが持つ人生の辛さ、やり切れなさを背負ったような、ずっしりと重いものではなく、端的に言うならばCREAMやROLLING STONESが演奏していた“WHITE BLUES”より更に軽く、聴きやすいと思います。