ジャズ喫茶に通っていた頃、良くリクエストされていたのが、当時新譜だったMcCOY TYNERの『SAHARA』でした。折からのピアノブームもあって「COLTRANEの後を継ぐのはMcCOY TYNER」との世評もありましたが『SAHARA』については何とも壮大な音楽ながら、これってジャズなの?既成概念に囚われない音楽なら発売時期が重なったSANTANAの『CARAVANSERAI』の方が・・・と感じていました。

 

McCOY TYNERが最もTYNERらしかったIMPULSE時代を検証します。

 

INCEPTION (IMPULSE A-18)

 

初リーダー作とは思えない充実ぶり。ベースにART DAVIS、ドラムスにELVIN JONESとCOLTRANE 4で共演した猛者をサイドマンに得たことも大きく影響していると思います。McCOY TYNERの自作4曲、スタンダード2曲という構成ですが、通常、初リーダー作の自作曲は、それまで温めてきた“取って置き”のはず、でも残念ながらTYNERは作曲の能力に長けておらず、自作曲はメロディの綺麗なスタンダードをより輝かせるためにあると言わざるを得ません。スタンダードの2曲「THERE IS NO GREATER LOVE」「SPEAK LOW」が会心の出来。

 

 

 

NIGHTS OF BALLADS & BLUES (IMPULSE A-39)

 

STEVE DAVIS(BASS)とLEX HUMPHRIES(DRUMS)を率いて、タイトル通り急速調の曲がない落ち着いた作品。有名なジャズ曲やスタンダードばかりでMcCOY TYNER入門用のみならず、ピアノトリオ入門用としても最適です。ただ上級者の中にはベタ過ぎる選曲に嫌悪感を抱く方もいるのでは・・・。ベスト・トラックは冒頭の「SATIN DOLL」とラストの「DAYS OF WINE & ROSES」、上品で華やかな原曲の特徴を良くとらえていると思います。

 

 

 

TODAY AND TOMORROW (IMPULSE A-63)

 

スタンダードの3曲はピアノトリオで、ジャズメン・オリジナル(TYNER 2曲、THAD JONES 1曲)の3曲は3本の金管楽器を入れて飽きさせないような工夫が見られます。3管の演奏はタイトで個人的にはJOHN GILMOREの参加が嬉しいのですが、上掲盤でも指摘した通り曲自体が面白味に欠けます。そのため、本来は脇役のはずのピアノトリオによるスタンダード3曲が主役になっています。それでも片面づつに纏めず、3管とピアノトリオを交互に配置したことにより飽きずに聴き通せる作品になっています。

 

 

 

McCOY TYNER PLAYS ELLINGTON (IMPULSE A-79)

 

6作目にしてついにJIMMY GARRISON、ELVIN JONESの黄金カルテットのメンバーによるピアノトリオ演奏(何曲かで+パーカッション)が実現しました。ただELVIN JONESがいつもより控えめなのは、パーカッションの存在のためか、題材が繊細なELLINGTONのためか分かりませんが、ちょっと残念です。作曲面で長けていないTYNERがELLINGTON集を選択したのは正解で中でも「CARAVAN」「SOLITUDE」「SATIN DOLL」といった超有名曲の演奏が特に秀でています。欲を言えばパーカッションを外して、その分余計にELVIN JONESに叩かせてTYNERとJIMMY GARRISONの三者でインタープレイを繰り広げれば更に素晴らしい作品になったと思います。それにしても『NIGHTS OF BALLADS & BLUES』でも取り上げた「SATIN DOLL」を再び、それもピアノトリオにパーカーションを加えただけの同じような演奏をするとは・・ELLINGTON集としては外せない曲なのは分かりますが・・・なんだかなぁ。

 

以上の録音、マスタリングは全てRVGによるもの、ピアノの録音に問題があると指摘されることが多いRVGですが、特に瑕疵は感じません。

 

 

ロックの台頭で、ジャズも大きく変化し始めた時期でしたが、McCOY TYNERもSONNY ROLLINSもMILESTONEレーベルに移籍以降は薄っぺらな音(録音のせい?)になって、全く蒐集する気が失せてしまったのは残念の一言。TYNERは過度の期待がプレッシャーとなり、新しいジャズを模索するあまり逆効果となり、往年のファンは離れてしまいました。やはり最もTYNERらしかったのはIMPULSE時代です。