単独アーティストが”クリスマス“を題材にアルバム一枚を作り上げることは至難の業だと思います。それでも星の数ほど”クリスマス・アルバム“は作られてきました。圧倒的に多いのはヴォーカリストによるもの。功成り名遂げたアーティストはクリスマス・アルバムを作ることが一つのステータスのようになっていたのかもしれません。でも、はっきり言ってクリスマスを題材にした一枚のLPの両面を飽きずに聴かせるアーティストがどれだけいたでしょうか。

 

ジャズでもDUKE PEARSONの『MERRY OLE SOUL』を筆頭にDON PATTERSON、BOBBY TIMMONS、KENNY BURRELL、MASTERSOUNDS、JIMMY SMITH、ELLA FITZGERALDら数多くのアーティストによるクリスマス・アルバムがありますが、  

いずれも1~2曲は素敵な曲があるものの大抵途中で飽きてしまいます。なので各自自慢のクリスマス曲を持ち寄ったVARIOUS アルバムこそが最も楽しく聴けるのではないかと思うようになりました。

 

JINGLE BELL JAZZ (COLUMBIA CL 1893)

 

DUKE ELLIMGTON、LIONEL HAMPTON、CARMEN McRAE、DAVE BRUBECK にMILES DAVISと大手COLUMBIAらしい錚々たるメンバーによるクリスマス集。このレベルのアーティスト達なら期待を裏切ることはありません。ところが明るく楽しく落ち着いたクリスマス集が、ラストのMILES DAVISの「BLUE XMAS」で雰囲気が一変します。初めて聴くとタイトル通りの暗い曲調に違和感を抱くと思いますが、何度も聴いていると、これはCOLUMBIA側が意図したことではないかと思うようになりました。MILESのレコーディングが1962年の8月、この年の12月にはこのクリスマス・アルバムが発売になっています。MILESの曲を含んだクリスマス集を作るためにCOLUMBIAは所属アーティストに曲の提供を持ち掛けたのではないでしょうか。「BLUE XMAS」のおかげで単なるクリスマス集が、コレクターも注目する一癖ある作品に変貌しました。そう考えると当時のMILESが既に別次元の存在だったことが分かります。

 

「BLUE XMAS」ではMILESよりヴォーカルのBOB DOROUGHとWAYNE SHORTERが目立ちますが、MILESと SHORTERは、これが最初のレコーディング(3曲)。但しSHORTERはJAZZ MESSENGERSに在籍中で、さすがのMILESも引き抜くことができず、替りにGEORGE COLEMANやSAM RIVERSを用いて”現状維持”のライブ・アルバムを連発します。MILESが次のステップへと舵を切ったのはSHORTERを引き抜くことに成功し『E.S.P』をレコーディングした1965年まで待たなければなりませんでした。なお、この時の他の2曲のうち「NOTHING LIKE YOU」は『SORCERER』に「DAVIL MAY CARE」はオムニバスの『BASIC MILES』に収録されています。

 

 

YULE STRUTTIN’(BLUE NOTE IP 8119)

 

1990年の制作、目を奪う印象的なジャケットがレコ屋に平積みされていた日のことをよく覚えています。全く新しい時代のクリスマス・ソング集だと思ったらCHET BAKER、LOU RAWLS、COUNT BASIE、DEXTER GORDONの名前も。オールタイム・クリスマスを演出したかったようですが最新のステレオ録音の中に古いモノラル録音が混じっている(CHET BAKERはSP音源)こと自体違和感があります。新しいアーティストは大して上手くもないのに、やたらメロディを崩すため、有名なクリスマス・ソングが並んでいるのに「ぼーっ」と聴いていると何を聴いているのか一瞬分からなくなります。ジャケットや企画自体は悪くありませんが、メンバー選考は誤ったようで、DEXTER GORDONに若いリズムセクションの組合せは、DEXが元気ないこともあり、ミスマッチ感が・・・・。今回取上げた他の2作と比べると印象に残る曲がなく軽薄な感じがします。新しいジャズ・アーティストにとって”クリスマス“は、今後ますます難しい題材になると確信した作品でした。

 

 

 

A CHRISTMAS GIFT FOR YOU(PHILLES PHLP 4005)

 

時代劇が好きで、特に『雲霧仁左衛門』は大のお気に入り。U-NEXTでSEASON1から最新作SEASON 6まで引き込まれるように見ました。ところがSEASON4(全7話)だけは見ることができません。理由はドラマの中で天一坊に扮した俳優が大麻所持で逮捕されたから。余程の極悪人ならともかく・・そこまで過剰反応する必要があるのか多分に疑問です。誰かが言ってましたが「作品に罪は無い」は正論だと思います。

 

それに比べると、このアルバムの中心人物のPHIL SPECTORは薬物中毒の経歴の他、晩年には殺人罪で有罪になっています。だからと言ってPHIL SPECTOR自身のレーベル、PHILLES RECORDSから発売されているRONETTESやCRYSTALSの演奏が聴けなくなったかというと、そんなことは無く、実際にYOU TUBEでは以前と変わらずに鑑賞できます。

 

拙ブログでも何度も取上げているため「耳タコ」かもしれませんが、これを外してクリスマス・アルバムは語れません。VARIOUSですがPHILLESレーベルのアーティスト達が、PHIL SPECTORのプロデュースのもと、最高に楽しいクリスマスを繰り広げています。