ある時期からBLUE NOTEのステレオ盤は中央にベースとピアノ、左チャンネルに管楽器(複数の時は左右に振り分ける)、右チャンネルにドラムスという位置が定石化します。もちろん、これはRVGが試行錯誤を重ねて得られた最良?の結果なのですが、RVGはステレオの時代であっても常にモノラルを意識した音作りを行ったことはステレオでの楽器配置にも表れていて、特にベースが中央の配置は、私のようなモノラル指向が強いリスナーが聴いても然程、違和感を持たない大きな要因となっています。

 

でも穿った見方をすれば、評判が評判を呼んで滅茶苦茶多忙だったRVGは、数多くのレコーディングをこなすため、録音ごとにセッティングをやり直すことを極力避け、オートメーション化したとも考えられます。これはBLUE NOTEの場合、モノラル盤とステレオ盤が同時発売になる時期(1962年7月・・・レコード番号だと4100番前後)以降に顕著化します。

 

当初ステレオ録音に積極的でなかったBLUE NOTEは、他レーベルでステレオ化が進んだ時期に於いても、4070番くらいまでの半数以上はモノラル盤のみの発売で、数少ないステレオ盤も売れ筋を中心に数ヶ月遅れて発売していました。全てのステレオ盤が発売されるのはLIBERTYに買収された以降です。

 

前置きが長くなりましたが、ステレオ初期に発売された84058番(4058番のステレオ番号)について、ずっと疑問に思っていることがあります。

 

ROLL CALL / HANK MOBLEY (BLUE NOTE ST-84058)

 

 

両溝。コーエン本にもステレオ深溝の希少盤として載っています。耳(P)マーク、RVG-STEREO刻印

 

『ROLL CALL』はHANK MOBLEYがMILES DAVIS QUINTETに参加する直前の1960年11月の録音、MOBLEYとしても最も脂が乗っていた時期に当たり、前作『SOUL STATION』のメンバーにFREDDIE HUBBARDを加えたクインテット編成のハードバップの名作です。

 

このアルバムの「THE MORE I SEE YOU」で、最後に主メロディに戻ったところで、それまで、ずっと右チャンネルにいたMOBLEYが、何故か急に左チャンネルに移るのです。こんなことはROCKの世界では珍しくもなんともなく、ステレオ効果を狙ってギターが右チャンネルから左チャンネルへ徐々に移動するようなことは日常茶飯事的にありました。でもモダンジャズ、しかも正統派のBLUE NOTE、まして録音はガチガチ(頭の固い)のRVGとなると話は別です。RVGが話題作りにステレオ効果を狙ったとは、とても思えません。

 

一つ考えられるのは、それまでのリミックスの効かない”ダイレクト・トゥ・2トラック方式の録音”から”マルチ・トラック録音”に切り替えた?ためリミックスが可能になったことを示したかったのかもしれません。それとも・・・?

 

これはオリジナル・ステレオ盤だけのことかと思いましたが、再発盤でも同様なままなので、国内盤等でも確認が可能です。比較的解明されているBLUE NOTEにも、まだまだ分からないことが多いようです。