WAYNE SHORTERの訃報に接して、思いの他多くのジャズファンの方が功績についてブログに綴られていますが、ほとんどがリーダーアルバムやWEATHER REPORTについてで、MILES DAVIS QUINTET時代について触れているものは稀です。改めて見直します。

 

 

E.S.P. (COLUMBIA CL 2350)

 

新生MILES QUINTET、初のスタジオ・レコーディング。『KIND OF BLUE』が時代を先取りしていたように、『E.S.P.』も全く新しいものに出会ったような新鮮さを感じます。それはSHORTERやMILESの神秘的な曲づくりとHANCOCKの瑞々しいピアノによって、もたらされました。

 

E.S.P.とは千里眼、超能力のこと。作曲者のSHORTERには次世代のジャズが見えていたのでしょう。SHORTERの作曲は「E.S.P.」と「IRIS」の2曲だけ、MILESはRON CARTERとの共作を含め3曲、SHORTERのお手並み拝見というところですが、既にSHORTER-WORLDに巻き込まれているような印象も・・・。HANCOCKの名作『MAIDEN VOYAGE』にも収録されたチャーミングな「LITTLE ONE」のオリジナルが聴けるのも、このレコードの楽しみの一つで、遥か先を行くMILES QUINTETが、ちょっとだけ身近に降りて来た瞬間でもあります。

 

 

 

 

MILES SMILES(COLUMBIA CL-2601)

 

SHORTERは3曲、MILESは1曲のみ。前作よりTONY WILLIAMS、RON CARTER の存在感が増して、いよいよ黄金クインテットが本格始動します。この時期としては評価の高いアルバムですが、気になるのは全体的に音が粗く濁っていること。意図的な録音なのか分かりませんが、前作のような透明感は失われました。SHORTERのテナーの音も高音部が随分と、きつく感じられます。混沌とした当時の世の中、ジャズ界を表現したのでしょうか・・・。

 

 

 

 

SORCERER (COLUMBIA CL-2732)

 

全7曲のうちSHORTER作が4曲を占め、MILESの曲は無くなり、主導権が完全にSHORTERに移ったような神秘的なSHORTER-WORLDが展開されます。前作の濁った音は姿を消し、再び『E.S.P.』の世界に戻ったような雰囲気です。A面は名曲揃いですが、B面最後の曲はBOB DOROUGHのヴォーカルをフューチャーした5年近く前のセッションから。SHORTERが参加した最初のセッションのようですが、特別な意図は感じられず、単なる時間調整のために挿入されたようで違和感が・・・。この時のセッションなら、のちに未発表曲集『BASIC MILES』(COLUMBIA C 32025)に収録された「DEVIL MAY CARE」の方がMILESやSHORTERのソロを含むインストで、ずっと良いと思います。

 

 

 

 

NEFERTITI (COLUMBIA CL-2794)

 

手持ちは放送局用にだけ配られたモノラル盤。レギュラー盤はステレオのみでモノラルはありません。このプロモ盤、何故か上掲3枚のモノラル盤より音が鮮明なのです。雰囲気は前作に似ていて姉妹アルバムのような位置づけ、SHORTER作4曲、HANCOCK作3曲、TONY WILLIAM作1曲と、前作に引き続きMILESの曲はありませんが、MILESの存在感自体は大幅に回復しています。内容は前作より研ぎ澄まされていて、かつ聴きやすくアルバム全体の纏まりも勝っています。タイトル曲や「RIOT」「PINOCCHIO」は名曲だと思います。アコースティック・マイルスは、ここまで。次作から電化が始まり、新しいファンも獲得しますが、見切りをつけて離れたオールド・ファンの方が遥かに多い結果に・・・・。

 

 

これら4枚のアルバムは、どれも音楽的には優れていますが、万人向けとは言い難く(実際、売れなかったようです)当時のもう一人の巨人、JOHN COLTRANEはフリージャズに傾斜、ジャズを牽引する二大巨頭が、これでは新しい(若い)ファンは取り込めず、ロックの台頭にジャズは、指を銜えて見ているだけの状態が続いたのも止むを得なかったと思います。