LESTER YOUNGのレコードは基本的には、古ければ古いほど、スケールが大きく迫力があり、優れていると思いますが、レーベルによっては異常に音が悪かったり、古色蒼然としたものも含まれています。それに比べるとNORMAN GRANZのVERVE系(MERCURY、CLEF、NORGRAN、VERVE)のレコードは、最晩年の録音を除けば、斬新さこそ無いものの、ジャケットもモダンだし、録音も古臭さを感じず、モダンジャズ・ファンも安心して入手できます。VERVE系の録音は1950年代のものが中心ですが、最も古いのは下掲の1946年録音で、内容も抜群です。

 

 

THE LESTER YOUNG、BUDDY RICH TRIO(NORGRAN MG N-1074)

 

12インチLP化されたのが1956年と録音から10年も経っていますが、テナー・サックス、ピアノ、ドラムスのベースレス・トリオという変則構成のためか刺激があり、古臭さは全く感じず、加えて全盛期のLESTERが優れた録音で聴けます。なんの予備知識も持たず、このアルバムを聴いたら、どんな感想を持つでしょう?少なくともタイトルやジャケット写真からは大物テナー奏者と剛腕ドラマーのバトルと思うはずです。ところが実際に聴いてみると、一部にドラマーが暴れる曲がありますが、大半は、ほぼリズム・キーパーに徹していて、目立つのはAYE GUYなる無名のピアニスト。OSCAR PETERSON張りの技量で、相当な熟練者と誰もが思いますが、実態はNAT KING COLEが変名で参加したもの。1943年に CAPITALと独占契約を結んでいたNAT KING COLEの名前も写真も使用できないため、AYE GUYなる変名を用い、表面上、その存在を消したのでした。

 


 

LESTER YOUNG TRIO (CLEF MGC 104)


LESTER YOUNG TRIO NO.2 (CLEF MG C-135)

 

こちらが上掲の12インチ『THE LESTER YOUNG、BUDDY RICH TRIO』の元になった10インチLP2枚です。1946年3~4月の録音ですが「赤」(リアル・オリジナルは12インチSP2枚組)が発売されたのが1951年、「黄」(SPは無く10インチLPがオリジナル)は1953年の発売です。これだけの素晴らしい録音が5年もの間「お蔵入り」していたのも、偏にNAT KING COLEの存在を表に出せなかったためでしょう。VERVE系のレスターではベスト・レコードで、10インチLPは12インチLPより音圧が高く、迫力もあります。また"ピサの斜塔"のイラストのジャケットも洒落ています。

 

 

NORMAN GRANTZは、1942年にLESTER YOUNG-NAT KING COLE-RED CALLENDERのドラムレス・トリオをPHILLOレーベルに録音(12インチSP2枚組)しています。NAT KING COLEがCAPITALと専属契約を結ぶ前なので、COLEの名前を使用できたのでしょう。このSP盤は1953年にALADDINレーベルによって10インチLP化されています。

 

(左)PHILLOの12インチSP盤、(右)ALADDINの10インチLP