スイス・ジュネーブから列車で約1時間、風光明媚なレマン湖畔の町、モントルーで1967年から毎年、開催されているモントルー・ジャズ・フェスティバルは、世界三大ジャズ・フェスティバルの一つとして認識されるまでになりましたが、当初はカジノが併設された今で言う「IR」のハシリのような施設でした。

 

ここで1968年1970年1975年の3回に渡ってBILL EVANSのライブ・アルバムが録音されています。VERVECTIFANTASYと別のレーベルから発売されていて「音」の違いにも触れたいと思います。

 

 

 

AT MONTREUX JAZZ FESTIVAL (VERVE V6-8762)

 

1968年のライブ。SCOTT LAFARO在籍中から、どことなく鬱屈した暗いイメージが漂うBILL EVANS、それは彼の魅力の一つでもあったわけですが、LAFARO急逝後は、更にその傾向が強まった印象でした。それが、このアルバムではあまり感じられません。理由はJACK DE JONETTE の参加が新たな刺激をもたらしたこと、それとスイス、モンタルーの地がEVANSの心を癒した結果かもしれません。そしてジャケットのお城のバックに広がる明るい青空が、我々リスナーにも少なからず影響を与えているのでしょう。EVANSとしては例のRIVERSIDEの4部作、JIM HALLとの『UNDER CURRENT』に次ぐ(最近は、これらに『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』も加わるようですが)人気作。爽やかな印象を受ける録音は、ラジオ・スイスの手によるもので名手VAL VALENTINも関わっています。

 

 

 

 

MONTREUXⅡ(CTI 6004) 

 

1970年のライブ、メンバーはEDDIE GOMEZAにMARTY MORRELL。元の録音は前作同様、ラジオ・スイスによって行われCTIレーベルの要請でRVGRERECORDING DEADWAXに手書きRVG)したもの。RVGのステレオ録音の特徴であるベースが中央に鎮座して、モノラルに近い雰囲気なのは嬉しいですね。ただ大きな会場でのライブということもあって、アップテンポの曲が多くなるのは、やむを得ないにしても、VERVE時代のライブに比べると荒っぽさが目立ちます。その傾向はベースやドラムではなく、ピアノのEVANSに特に顕著で、また既発曲ばかりで新曲が「ALFIE」しかないのも残念です。ピアノの録音・マスタリングが不得手と言われるRVG、確かにベースやドラムが綺麗に録音されているのに比べると、ピアノの音は籠って繊細さに欠け、EVANSらしさが出ていない不満が残る録音・マスタリングです。3枚の録音を比べるとRVGがEVANSには不向きなのがハッキリと分かります。

 

 

 

 

MONTREUX Ⅲ (FANTASY F-9510)

 

1975年のライブは、ドラムを抜いたBILL EVANSと EDDIE GOMEZのデュオ。でも、これが新鮮で、ややマンネリ気味だったそれまでのトリオ演奏からは考えられない、かつての繊細なEVANSが戻ってきたように感じる傑作です。FANTASYの録音は高音が綺麗に抜けて繊細なEVANSのピアノに最適で、3枚の中では最も高音質です。「ELSA」と「I LOVE YOU」以外の曲は、ここが初出なことも新鮮さを強調する結果となりました。ドラム不在の影響を全く感じさせない濃い演奏ですが、エレキ・ピアノ(EVANSには不要!)を弾いている曲と、GOMEZのベースの音が70年代の特徴か、時々軽薄すぎるのが気になります。アンコールの「THE SUMMER KNOWS」が素敵です。

 

 

知名度は圧倒的に「お城のエバンス」でしょうが、内容、録音ともに同等レベル以上に、優れているのが『Ⅲ』です。