時代は変わる。かつては大いに役にたっても、今は無用の長物になっているものが多々あります。レコード文化自体、CDの出現、音楽配信、プラスティックごみの問題等で、既に一部のマニアだけのものに、なっていることは否定できません。 

 

そうしたレコードマニアにも近年、全く顧みられなくなったのが、いわゆる“オムニバス盤”や“SAMPLER”です。

 

廃れた理由

・オムニバス盤やSAMPLERに頼らなくても、YOU TUBE等で簡単に試聴ができるようになった

・お目当てのレコードが入手できれば、必然的に不用になる

・音質は、オリジナル盤に比べると明らかに劣る

・数多くの楽曲を収録するのならCDの方が遥かに有利

・かつてはオムニバス盤だけに収録されていた曲もCDの追加曲として、ほとんどが聴けるようになった

 

ただ、お目当て以外の全く期待しないアーティストを思いがけず気に入るという体験は、SAMPLERを通して聴かないと無理で、お目当てのアーティストだけ選択できる、YOU TUBEでは不可能。それゆえ隠れたお気に入りアーティストを見つけるのには、SAMPLER的なオムニバス盤が最適でした。もっとも、それも発見するまでの話で、見つけてしまえば用がなくなります。結局、オムニバス盤で辛うじて生き残っているものはSAMPLER的なものではなく、その盤でしか聴けない音源を収録、もしくはジャケットで魅了するといった付加価値を持っているものだけです。

 

そうしたオムニバス盤の鏡のようなレコードが、PACIFIC JAZZレーベルにあります。

 

JAZZ WEST COAST (PACIFIC JAZZ JWC-500)

 

JAZZ WEST COASTシリーズの第一弾。CHET BAKER、GERRY MULLIGAN、BUD SHANK、CLIFFORD BROWN、BILL PERKINSらPACIFIC JAZZの"おいしい"ところを網羅した作品。何が凄いかって全14曲のうち別テイク(ALTERNATE MASTER)が9曲、未発表曲が4曲もあり、オリジナル盤を踏襲しているのは僅か1曲だけ。未発表曲は、後年正規盤の中に組み込まれましたが、世に出たのはこれが最初、つまり、これら13曲こそオリジナルなのです。だから通常オムニバス盤は、オリジナル盤からダヴィングされるため音質面で大きく劣ることが多いのですが、これは抜群の音です。レーベル面が青色もありますが、黒がオリジナルです。

 

 

 

 

THE BLUES  (PACIFIC JAZZ JWC-502)

 

名写真家WILLIAM CLAXTONの写真を使った、PACIFICの素敵なジャケットの中でも最高位にランクする一枚。一過性とはいえPACIFIC JAZZが、あれほど人気を誇ったのは、CLAXTONのジャケットによるものと言っても過言ではありません。

魅惑的なジャケットのため、オムニバス盤にしては異常な人気があったようで、レーベル面(JAZZ WEST COAST以外にもPACIFIC JAZZ、WORLD PACIFICの盤が存在)や、表題の違い等、何種類かの再発が確認されています。リアル・オリジナルは上掲の表ジャケが「PACIFIC JAZZ RECORDS」表記、裏面は2色印刷、レーベルは「JAZZ WEST COAST」です。未収録曲は2曲のみです。

 

 

 

 

RODGERS AND HART GEMS(PACIFIC JAZZ JWC-504)

 

作曲家RICHARD RODGERSと作詞家LORENZ HARTコンビによる、お馴染みの名曲の数々をPACIFIC JAZZ のレコードから集めたオムニバス。題材が決まっていて、一本筋が通っていることと、素敵なイラストジャケが売り。但し未発表曲はありません。メロディが素敵なのでBGMとしても最適だと思います。

 

 

 

 

SOLO FLIGHT (JAZZ WEST COAST JWC-505)

 

ジャケットの抽象画がイマイチ気に入りませんが、内容の素晴らしさは、このシリーズでも屈指。タイトル(SOLO FLIGHT)が示しているように、ワンホーンによる楽曲を集めていますが、全10曲のうち5曲が未発表、しかもJAMES CLAY、BILL PERKINS、RICHIE KAMUCA、PHIL URSOらは、サイドマンとして参加したセッション時に、リーダーとして1曲だけ吹き込んだもので極めて貴重。そして、それらは当然、ここで初めて陽の目を見る“オリジナル”なので、音質も他の曲より良好です。

 

 

 

 

JAZZ WEST COAST VOL.3 ( JAZZ WEST COAST JWC-507)

 

未発表曲は少ないけれど、WILLIAM CLAXTONの写真を使った一際印象深いジャケットが異彩を放っています。ただ惜しいのはPACIFIC JAZZには、BLUE NOTEのREID MILESのような優れたデザイナーがおらず、CLAXTONの写真を、ほぼ、そのまま使用するケースが多かったこと。ジャケット写真に、ちょっと手を加えれば更に魅せることができ、売上げ増に繋がったのに残念です。

 

CHICO HAMILTONの「MR.SMITH GOES TO TOWN」、PHIL URSO‐BOB BURGRCESS QUINTETの「TOO MARVELOUS FOR WORDS」、RUSS FREEMAN‐BILL PERKINS QUINTETの「BROTHER CAN YOU SPARE A DIME」の3曲が未発表。特に後の2曲は素晴らしい出来栄えですが、これらのコンビのセッションは、このアルバムに収録された曲しか存在しません。。

                                                                                             

 

このJAZZ WEST COASTシリーズは全14枚ありますが、番号が進むに連れ徐々に未発表曲は減り、また502や507に比肩するような素敵なジャケットも無くなりました。これらのオムニバス盤、見つけるのは容易でも、状態の良いものを探すのは結構、苦労すると思います。正規盤にくらべると、ぞんざいに扱われたことは明らかですから。