毎年、この時期になると話題に上がる村上春樹氏、若い頃にはジャズ喫茶「ピーターキャット」を経営され、ジャズに造詣が深い事は、つとに有名ですね。どの雑誌で読んだか記憶が定かではありませんが、氏に「BUD SHANKは、このジャケットで聴かないと・・・」と言わしめたアルバムについて。

 

PACIFIC JAZZ(WORLD PACIFIC)の素晴らしいジャケット写真を数多く手掛けたWILLIAM CLAXTON、BLUE NOTEのFRANCIS WOLFに比肩する名写真家です。中でも、小枝を掴む少年にピン・フォーカスし背後のフルートのBUD SHANKを暈した、このジャケットは代表作の一つだと思います。

 

FLUTE’N ALTO / BUD SHANK QUARTET (WORLD PACIFIC WP-1286)

 

30年前、冒頭の村上氏のコメントを見た時点では、このレコードは未収集で氏同様にジャケットに強く魅せられ羨望の的になりました。蒐集までに結構、時間が掛かりましたが、それだけに入手できた時の嬉しさは、ひとしお。暫くジャケットを眺めたあと、ターンテーブルにレコードをセット、最初の曲が流れ始めます・・・・「ん?」・・・・続いて2曲目・・・「あれ?・・・もしかして」・・・3曲目・・・「まさか・・・あああぁ」、ここで疑惑が確信に変わりました。3曲とも聴いた記憶があったのです。

 

そう、これはオリジナル・アルバムではなく、下掲2作 (PJ-1215、1230)のコンピレーションだったのです。

 

 

 

 BUD SHANK QUARTET (PACIFIC JAZZ PJ-1215)

 

BUD SHANKは、PACIFIC JAZZのオーナー、RICHARD BOCKが経営から手を引くまで数多くのレコーディングを行い、レーベルを支えました。1960年中頃からは、レーベルの方針もあり、BEATLES等、最新のヒット曲をアレンジした軟弱なEASY-LISTNING JAZZを連発、一般的な支持は受けるものの、モダンジャズ・ファンには、ソッポを向かれるようになります。

 

本盤は1956年、SHANKがGERRY MULIGAN、CHET BAKERらと共にPACIFIC JAZZを牽引していた時期の代表作。アルトサックス主体の中、フルートのトラックが良いアクセントになっています。この頃のPACIFIC JAZZは分厚いジャケットで、BLUE NOTE1500番台にも負けない丁寧な作りですが、レコード格納口に余裕がなく、レコードを無理に押し込むと表面にスレが発生したり、ジャケットが割れるケースが多く、意外に状態の良いものが残っていないのが欠点。上掲コンピレーション盤、全9曲のうち本盤から6曲と大半が選出されています。

 

 

 

BUD SHANK QUARTET(PACIFIC JAZZ PJ- 1230)

 

上掲の1215番と、どちらも『BUD SHANK QUARTET』で、しかもFEATURING CLAUDE WILLIAMSONの注釈まで同じ。区別が付かないため、コレクターの間では1215番を「イラストのSHANK」、1230番を「寝そべりのSHANK」と呼ばれています。メンバーは1215番と全く同じ、1215番より約10か月後、1956年11月の録音です。こちらから3曲しか選ばれなかったのは、二番煎じ的な感が否めなかったからだと思いますが、出来栄えは変わらず、良好です。1215番と同じく、アルトよりフルートのセッションの方が強く印象に残っています。

 

 

 

長い間、コレクターをやっている方は、タイトルやジャケット、曲順が変わっていることに気付かず、うっかり実質同じアルバム(VERVE系に多し)を入手してしまったことも、一度や二度は、あるはずです。別テイクや未発表曲が含まれていないコンピレーション盤は、オリジナル・アルバムを入手した時点で処分しますが、これは同メンバーのセッションなので、曲間の違和感がないこと、そして何よりジャケットが秀逸なため、今もしっかり所有しています。

 

ところで、冒頭に記した「BUD SHANKは、このジャケットで聴かないと・・・」、このジャケット・・ということは、村上春樹氏は、これがコンピレーション盤だと知っていたわけで・・・・さすがですね。