「定食屋でBGMにジャズが流れていました」という文章をよく見かけます。実際、私も安酒場、日本蕎麦屋等で同じような経験を何度もしています。BGMとして最も多く流れていたものの一つが JOHN COLTRANEの『BALLADS』でした。

 

テナーサックスにしては高音の、優しい音色に心が和む冒頭の「SAY IT」、この曲は鮮明に覚えていますが、続けて「YOU DON’T KNOW WHAT LOVE IS」が流れたかは定かではありません。場所柄、音楽に傾聴しているわけではないので・・・まぁ、BGMとは、そういうものでしょう。

 

『BALLADS』、今でこそCOLTRANEの代表作の一つとして評価されていますが、少なくとも私がジャズを聴き始めた1970代には一般受けこそしたものの、多くのジャズ評論家は意図的に触れたがらず、また一言居士やスクウェアな人間が多かったコアなジャズファンには、決して評判の良いアルバムではありませんでした。それが時代の変遷とともに・・・・。

 

 

BALLADS/ JOHN COLTRANE QUARTET (IMPULSE STEREO A-32)

オリジナルはAM-PAR表示、所有盤はABC PARAMOUNT表示のセカンド、VANGELDER刻印。

IMPULSE移籍後のCOLTRANEは、時代を切り裂くような凄まじいスピードでジャズ界を席巻、怒れるCOLTRANEには「なごみ」は無縁のものと思われていました。そんな中に突然出てきた『BALLADS』に、時系列的に聴いてきた熱心なファンが戸惑い、違和感を持ったのは、ある意味、当然のことだったかもしれません。

 

評価が変わったのは、フリージャズが幅を利かせ、ROCKでも強烈なプロテスト・ソングが健在だった70年代初頭までは熱く燃えていた、若者の政治や社会に対する問題意識1973年のベトナム戦争終結とともに急速に萎んだことに関連しています。JAZZもROCKも口当たりの良いものが好まれるように変わって行ったのです。COLTRANEも重厚でハードなIMPULSE後期のものは敬遠され、『BALLADS』等、安堵感や寛ぎを持ったアルバムが好まれるようになりました。昔からのコアなファン(多くが現在60歳代後半以降の方)は、未だに抵抗があるようですが、若年層にはCOLTRANEの代表作と言えば、最初に『BALLADS』が上がる程、モダンジャズ屈指の名盤として高い評価を得るまでになりました。個人的にも時代にマッチした最高のアルバムだと思っています。

 

 

 

 

さて、ここからは、コレクター目線で『BALLADS』に関する情報をいくつか・・・。

 

まずは、シングル盤・EP盤について。『BALLADS』からシングルカットされたのは、「IT’S EASY TO REMEMBER」と「NANCY(WITH THE LAUGHING FACE)」の2曲です。別々のシングル盤のそれぞれ片面に収録され、RVGのマスタリングで音質は良好です。

 

IT'S EASY TO REMEMBER / GREENSLEEVES (IMPULSE 45-203)、AM-PAR表示、RVG刻印。NANCY / UP 'GAINST THE WALL (IMPULSE 45-212)、AM- PAR表示、VANGELDER刻印。

 

 

 

米国オリジナルのJUKE BOX用EPは「SAY IT」、「IT’S EASY TO REMEMBER」、「TOO YOUNG TO GO STEADY」、「ALL OR NOTHING」の4曲を収録。これに対して日本独自のEP盤は「SAY IT」は同じですが、他は「YOU DON’T KNOW WHAT LOVE IS」、「I WISH I KNEW」、「WHAT’S NEW」と、日本人好みの選曲になっています。

 

米国JUKE BOX用EP盤 (EP AS-32)、AM-PAR表示、VANGELDER刻印、音質良好。

 

日本版EP(キング PS-136)、1969年発売。いわゆる国内盤の音、音は良くありません。

 

<その他>

*『BALLADS』は、必ずRVG刻印もしくはVANGELDER刻印があるものをお奨めします。「BELLSOUNDS」刻印のものは、音が割れます

*英国盤のジャケ違いのLP(下掲)は素敵なイラストですが、音は全くダメなので、ご注意ください。

 

以前所有していましたが処分済みのためネットから画像拝借

 

「ラーメン屋でBGMにCOLTRANEを流すな」という内容のエッセイを読んだ記憶がありますが、私は寛ぎをもたらす『BALLADS』はBGMとして最適、酒の席で口論になるようなことも、少しは防ぐ効果があるのでは、と思っています。