会社に「ジャズ好き」と噂される上司がいました。仕事の知識は豊富で、熱心な指導でも知られていました。ある時、その上司の車に乗り合わせて営業に向かう機会がありましたが、車の中ではMJQの『ラスト・コンサート』が流れていました。

 

 私  「○○部長はジャズが、お好きだって聞いてますが・・・」

上司 「あー、好きで良く聴くね、大好きだ、君も好きなのか?」

 私  「えー、そこそこ聴いてます」

上司  「どんなのが好きなのかな?」

 私   「SONNY ROLLINSとか・・・」

上司  「それは、ちょっと知らないなぁ~」

 私   「(えっ)、・・・・・・」

 

それ以上、ジャズの話をするのは止めて、話題を変えました。

 

 

大衆居酒屋や定食屋でも、BGMにジャズが流れるなど、確実に裾野は広がっていますが・・・・・これが実態なのかもしれません。

 

というわけで、今回はSONNY ROLLINSを知らない上司も知っていた”MODERN JAZZ QUARTET”について

 

 

なんだかんだでMJQのアルバムは、10枚程、所有していますが、滅多にターンテーブルに載ることは無く、むしろJOHN LEWISやMILT JACKSONがサイドマンとして参加したものを良く聴きます。MJQは初期のPRESTIGEのアルバムが代表作だと思いますが、あまりにベタな選曲のため繰り返し聴いているうちに、すっかり飽きてしまいました。ここでは近年、割とよく聴いている渋めの作品を紹介します。

 

 

 

PYRAMID (ATLANTIC 1325)

 

アルバムの雰囲気は、冒頭にクラシカルな「VENDOME」があるため『FONTESSA』に似ていますが、2曲目の「PYRAMID」で一変します。MAHALIA JACKONの歌声に感銘を受けたRAY BROWNが書き上げた、この曲はゴスペルとブルースの影響が大で、正にMILT JACKSONのためにあるような曲です。完全に主導権をJOHN LEWISに握られていたMJQに於いて、10分超のMILT JACKSON主導の曲というのは貴重でした。ベスト・トラックはラストを飾る「ROMAINE」、BILL EVANS=JIM HALLの『UNDERCURRENT』でも演奏された夢見るような素敵な曲です。PRESTIGE時代の「DJANGO」の再演を含め、とても良くまとまっているアルバムだと思います。

 

 

THE SHERIFF(ATLANTIC 1414)

 

冒頭のタイトル曲が、ピアノを叩きつけるような演奏なため、そこだけで敬遠してしまう方が多いように思いますが、このアルバムの聴きどころは、2曲のラテン系の曲にあります。1曲は「BACHINAS BRASIKEIRAS」・・・その名のとおり「ブラジル風バッハ」・・・クラシックとサンバの融合です。2曲目はLUIZ BONFAの名曲「カーニバルの朝」、ボサノヴァには、ヴァイブラフォンが抜群に良く似合います(DEXTER GORDONの『GETTIN’AROUND』のBOBBY HUTCHERSONが良い例)。JOHN LEWIS作の「NATURAL AFFECTION」もボサノヴァ・タッチの軽快で涼し気な曲です。クラシックとブルースが専門のMJQに、もう一つ新たな得意分野が出来たエポック・メイキングなアルバムです。

 

 

COLLABORATION / THE MODERN JAZZ QUARTET WITH LAURINDO ALMEIDA (ATLANRIC 1429)

 

前作の「ブラジル風バッハ」を更に推し進めたのが、ギターのLAURINDO ALMEIDAとのコラボ。LAURINDO ALMEIDAは、この10年以上前にBUD SHANKらと共演しており、ジャズメンとの共演はお手の物。当時のボサノヴァ・ブームに乗り、再び脚光を浴びることになります。

 

A面は、JOHN LEWIS作「ブラジル風バッハ」が演奏され、ALMEIDAは極々控えめで、タイトルどおりMJQ WITH LAURINDO ALMEIDAですが、B面になると、LAURINDO ALMEIDA WITH MJQに主役が替わります。よりブラジリアンらしいのは、当然B面で最後に長尺の「アランフェス協奏曲」で締めくくります。元々クラシック・ギターのために書かれた曲なので、LAURINDO ALMEIDAの面目躍如です。

 

 

取上げた3作は、いずれも評判の芳しくないATLANTIC録音。正確には録音ではなく、マスタリングだと思いますが、上掲3枚については大きな不満はありません。