元々はジャズ・シンガーでないのに、アルバムに華を添える目的でフューチャーされた女性ヴォーカルが、時として主役を喰ってしまうことも・・・・。

 

 

JAZZ SAMBA ENCORE ! /STAN GETZ & LUIZ BONFA (VERVE V-8523)

 

GETZのテナー、LUIZ BONFAのギターの合間に聴けるマリア・トレド(MARIA TOREDO)のヴォーカルやヴォーカリーズ(スキャット?)が、アルバムを華やかなものにしています。これは明らかに下掲の『GETZ / GILBERTO』でのASTRAD GILBERTOの起用を後押ししました。そういう意味ではエポック・メイキングなアルバムです。実際、内容も『GETZ / GILBERTO』に比肩する名盤、特にLUIZ BONFAのギターは感動ものです。

 

 

 

GETZ / GILBERTO (VERVE V6-8545)

 

STAN GETZもJOAO GILBERTOも CARLOS JOBIM、誰もが「俺が主役だ」と思って、このアルバムを作り上げたのに、脚光を浴びたのは「イパネマの娘」と「CORCOVADO」で、ちょこっと歌った素人同然のアストラッド・ジルベルト(ASTRAD GILBERTO)だったのには当事者たちは仰天したでしょうね。特に夫のJOAO GILBERTOにしてみれば「アホらしくて、やってられない」心境だったと思います。ところでJOAO GILBERTOが「GETZは、まるで分かっていない」とセッションの感想を語ったと伝えられていますが、確かにGETZは、時折およそボサノヴァらしくないHAWKINS張りのウェイルを繰り返しています。「北欧のGETZ」時代のCOOLな奏法こそボサノヴァにはピッタリだったのに・・・。でもJOAO GILBERTOのギターとヴォーカルANTONIO CARLOS JOBIMのピアノは最高、歴史的名盤の地位は全く揺るぎません。

 

 

 

 

SUPER NOVA / WAYNE SHORTER (BLUE NOTE 84332)

 

最初に聴いたSHORTERが、このアルバムだったのがSHORTERに対する苦手意識が、中々払拭できなかった主要因でした。全曲SHORTER自身が初めてのトライしたソプラノ・サックスに加え、JOHN McLAUGHLINとSONNY SHARROCKのROCKまがいのギター、良く言えば神秘的、全宇宙的ですが・・・。一度処分した後に買い直して、ようやく少しだけ良さが理解できたレベルです。理解に苦しんだ当時の唯一の救いが、マリア・ブッカー(MARIA BOOKER)が歌うボサノヴァの名曲「DINDI」、怪しげな宗教的儀式のような演奏の途中で、突然、現われたMARIAが感極まったところで、フェード・アウトする不思議な内容です。

 

 

 

 

RETURN TO FOREVER / CHICK COREA (ECM 1022 ST)

レーベル面や裏ジャケに「MADE IN GERMANY」の記載が無いもの、背文字も無いものがオリジナル。

 

このエポックメイキングな名盤の主役は、もちろんエレピのCHICK COREAであり、ベース(特にアコースティックの方)のSTAN CLARKE、爽やかなフルートとソプラノ・サックスのJOE FARRELLだと思いますが、もしフローラ・プリム(FLORA PURIM)が、いなかったら、きっと売り上げは半減していたでしょう。それほど、ここでのPURIMの洗練されたヴォーカルは、効果的に使われていて多くの新しいジャズ・ファンを獲得しました。

 

 

 

HOW INSENSITIVE / DUKE PEASON (BLUE NOTE 84344)

 

もう一枚、フローラ・プリム(FLORA PURIM)を。上掲『RETURN TO FOREVER』でブレイクする前に、既にDUKE PEASONの諸作で存在感を表わしていました。元々明るいイメージのアルバムですが、FROLA PURIMがフューチャーされた曲になると一際、華やかな雰囲気に包まれます。後にRETURN TO FOREVERを形成するAIRTO MOREIRAとFROLA PURIMを発掘したDUKE PEASONの功績は、もっと評価して良いように思います。

 

 

 

商魂逞しいレコード会社は、すぐに彼女らのリーダー作を手掛けます。でも脇役では輝いても、いざ主役でアルバム一枚を作るとなると、どうしてもオーバー・プロデュースな作品に、なってしまうのは十分予想されたことでした。

 

当時の辛口評論家たちも、彼女たちのことを「客寄せパンダ」的に捉えていましたが、新しいジャズファンを獲得し裾野が拡がったことを勘案すると・・・再評価すべき時期に来ていると思います。