PRESTIGEはMODERN JAZZ QUARTETの『CONCORD』や『DJANGO』がヒットし、これから同レーベルのドル箱になると思われた矢先に、ATLANTICへ移籍されてしまいます。そこで「第二のMJQ」を目論みTHE PRESTIGE JAZZ QUARTETを世に送り出します。

 

THE PRESTIGE JAZZ QUARTET(PRESTIGE 7108)

 

MODERN JAZZ QUARTETの成功は業界に大きな衝撃を与えたようで、同じヴァイブラホン中心のグループ(TEDDY CHARLES、 MAL WALDRON、ADDISON FARMER、JERRY SEGAL)が誕生しました。柔らかみ、温かみのあるMILT JACKSONに対し、硬質でCOOLなTEDDY CHARLESという図式、MJQと違って結構、刺激的な内容です。聴きものはMONKの「13日の金曜日」、MONKからの影響が少なくないWALDRONとTEDDY CHARLESの掛け合いで、実験色が強かった10インチ時代のTEDDY CHARLESは、かなり鳴りを潜め、ハード・バップとしても聴きごたえのある傑作アルバムに仕上がっています。彼らが偉かったのは4人だけのアルバムは、この1枚で止めたこと。続編を作っていたらPACIFIC JAZZのTHE MASTERSOUNDSのように、あっという間にマンネリ化したと思います。

 

VIBE-RANT(ELEKTRA 136)

 

上記PRESTIGE JAZZ QUARTETにトランペットのIDREES SULIEMANを加えたQUINTET仕様。

 

SWING JOURNAL誌1991年5月増刊「ジャズ・レコード・マニア」~世界のマイナー・レーベルのすべて~には、このレーベルを「E」マーク、アゲハチョウのマークでお馴染みのELEKTRAとは別会社との記載がありますが、間違いで同一の会社です。裏ジャケにTECHNICAL DATA(○○のマイクと△△のテープレコーダーを使いXXが□□で録音、RIAAカーブでの再生が適している等)が細かく記載されています。『TENOR MAN』でお馴染みのJAZZ WESTも同じくTECHNICAL DATAが記載されていましたが、両レーベルに共通するのは「」が良いこと。これだけの録音データを記載するのだから「音」に自信を持っていたのでしょう。実際、爆発する高音が魅力のIDREES SULIEMANのトランペットの音は、RVG録音の下掲の「COOLIN’」より生々しく突き抜けた感じが、良く録られています。ただ肝心のTEDDY CHARLESのヴァイブラホンやMAL WALDORONのピアノに関してはRVG録音には及びません。TEDDY CHARLESがリーダーなのですから、もっとヴァイブに焦点を合わせるべきだったと思いますが、トランペットのヴァイブ入りのワンホーン作と見做すなら、かなりの秀作です。実験臭は皆無の純粋のハード・バップ。

 

 

COOLIN’(NEW JAZZ 8216)

 

上掲アルバムにJOHN JENKINSのアルト・サックスを加えた布陣、RVG録音のNEW JAZZの名盤です。JENKINSやSULIEMANの演奏は、とても熱く、ジャケット写真のプールの水温が上がったところに大きな氷の塊(TEDDY CHARLES)を投入したような音楽です。「COOLIN’」とはTEDDY CHARLESのヴァイブの音色に因んで名付けられたのでしょう。大きな氷でも思ったほど温度が下がらなかった熱血ハード・バップ、これも実験色は全くありません。

 

IDREES SULIEMANのトランペットは、ELEKTRA盤の方がクリアで高音も伸びています。ただRVGは、どうしても目立つSULIEMANのトランペットの音は、やや抑え気味にして他の楽器と調和を図ったように思います。実際TEDDY CHARLESのヴァイブの音は、こちらの音がよりCOOLに録られています。

 

上掲作品は、3作品とも1957年の録音、いずれ劣らぬ名盤だと思いますが、同レベルの作品が大量に生み出されたモダン・ジャズの黄金期、PRESTIGE JAZZ QUARTETは、大した話題になることもなく消えて行きました。