60年代の終わりから70年代前半にかけてFAIRPORT CONVENTION、STEELEYE SPAN、PENTANGLEといった英国伝統民謡(BRITISH TRADITIONAL FOLK)を電化(PENTANGLEは基本アコースティック)し、ROCK世代に引き継ごうという動きが活発になり、わが国でも国内盤として発売になるなど、それなりに話題になりました。

 

ただ、そこから先には、なかなか踏み込まず、元歌を聴いてみたいと思っても、当時はガイド本のようなものすら無く、上掲の3つのグループから派生したところまでの表面をなぞった程度で終わってしまったのは、なんとも残念でした。

 

 

そんな先が見えない状況を一気に解消してくれたのが、拙ブログでは何度も登場している「ブラック・ホークの99選」です。ここでDICK GAUGHANの『NO MORE FOREVERに出会います。今となっては「99選」の最大の功績は、このアルバムを日本人に知らしめたことだと思っています。当時はDICK GAUGHANのプロフィールは、もちろん顔写真も見たことが無く、名前すら知らない状況で黒一色のシンプル過ぎるジャケットは、雪舟の水墨画のように映りました。

 

中身も、あまりにシンプルすぎて(アコースティック・ギターと曲によってALY BAINのフィドルが付くのみ)中々両面を通して聴くこともできず、本当に良さが分かるまで随分と時間を要しました。でもその良さが分かるようになると・・・・このレコードほど「郷愁」と「静粛」を感じるレコードは他にありません。まるで自分がスコットランドの片田舎の出身であるかのような錯覚に陥ります。

 

当時は英国盤(米盤は発売されず)の入手が難しく、音源が聴ければ良かったのでオリジナル盤に固執することは全くありませんでした。オリジナル盤の魅力を知るようになってからもオリジナルを判別するレーベルの資料なんて殆ど無い時代、ましてTRILERなんて英国のマイナーレーベル、調べようが無く、運よく購入できた「黄色」レーベルもオリジナルだと信じて疑いもしませんでした。

 

ところが、ある時「赤色」レーベルがオリジナルであることが分かると、オリジナル盤コレクターのいやらしいところで居ても立っても、いられなくなりました。必死に探しました。探す過程でHIGHWAY レーベルで再発されたことも知ります(eBayで良くある抱き合わせ販売で、もう一方のレコードが欲しくて、たまたま入手)。暫くして「(黒)」レーベルを入手、日本ではこれをオリジナルとしています。しかし、満足したのも、つかの間で「)」レーベルがあることが判明。近年やっとeBayで入手できました。結局4種類の『NO MORE FOREVERが手元にあります。

 

レーベルの変遷:「)」→「(黒)」→「黄色」→「HIGHWAY」

 

この深みがあって暖かく、郷愁を感じるヴォーカル。普通のシンガー・ソングライターのレコードと比べると取っ付きにくいこと、この上ありませんが、このアルバムを制覇できれば英国伝統民謡(BRITISH TRADITIONAL FOLK)の頂上まで、あとわずかです。

 

 

DICK GAUGHANの代表作と言えば1981年作の『HANDFUL OF EARTH』がダントツの人気で同年のメロディ・メーカーFOLK部門の第一位、80年代全体を通しても最高のアルバムとしての評価を受けています。ただ『NO MORE FOREVERの頃とは打って変わって力強く説得力のある歌声に変わっています。そしてトラッド・シンガーからトラッドも歌うシンガー・ソングライターへと形態が変わり、ギターの音も現代的に、明瞭な録音と併せて人気を博しましたが『NO MORE FOREVERをこよなく愛する者としては、ちょっと寂しい気持ちになります。