昔から超高額で知られるTRANSITIONレーベル。発売枚数が少ない上に材質が塩化ビニールではなく“スチレン”のため、柔らかくキズに弱い。強力なレコード・クリーナーを使った後にレコードを掛けると表面の塵とともに盤も削ってしまい針先に真っ黒な汚れが付着するという、とんでもないことになるため、上質のオリジナル盤の流通枚数は極めて少ないと思われます。

 

TRANSITIONは後にSIMON&GARFUNKELやBOB DYLANのプロデューサーとして一般的にも知られるようになるTOM WILSONが学生時代に興したジャズ専門レーベルでしたが、資金難のため2年で倒産、実際に発売されたレコードは15枚でした。

 

 

 

JAZZ IN A STABLE(TRANSITION TRLP-1)

 

ジャケットにはリーダー名が記載されていませんが一般的にはトランペットのHERB POMEROYのリーダー作として知られています。このTRANSITIONレーベル最初のレコードは以降のレコードと幾つかの違いがあります。標準装備されているブックレット(小冊子)が付いていない。替りに裏ジャケに解説(他は裏がブランク)。DEEP GROOVE(深溝)があります。他のレコードには溝がなく、レーベル面が剝がれやすいのがTRANSITIONの特徴の一つです。冒頭に材質は”スチレン“と記載したばかりですが、この盤は重く(スチレン製は軽い)塩化ビニール製です。

 

演奏は全体的に大人し目で刺激に乏しく西海岸のジャズを聴いているよう。迫力がないのは多分に録音が良くないことが原因で、もし好録音なら、それなりの評価を受けたと思います。MONKあり「DEAR OLD STOCKHOLM」ありの選曲は魅力的ですが、如何せん音が悪いのが致命傷。ところで裏ジャケに今後の発売予定(10番まで)が記載されていますが、2枚目の『JAZZ ON COLUMBIA AVE.』は発売されるも、3枚目からは、もう予定通り行かなかったようで・・・。

 

*本稿投了後にネットで調べたら、このアルバムにも他と同じ”スチレン製”の盤が存在、TRANSITIONレーベル自体の検体が少なく解明されていない謎は、まだまだあるようです。

 

BYRD’S EYE VIEW / DONALD BYRD (TRANSITION TRLP J 4)

 

DONALD BYRDのリーダー作となっていますがHANK MOBLEY、HORACE SILVER、DOUG WATKINS、ART BLAKEY(一部でJOE GORDON参加)の“そのまんまJAZZ MESSENGERS”ですから悪いはずがありません。しかもRVGがリマスタリング(録音はARNIE GINSBERG)しているためBLUE NOTEの音に酷似しています。演奏良し、音良しで人気盤なのも頷けます。

 

 

 

BYRD-JAZZ / DONALD BYD (TRANSITION TRLP 5)

 

音が良かった『BYRD’S EYE VIEW』のすぐ後なので期待すると ライブ録音ということを差し引いても音が悪すぎます。冒頭のMCは良い音ですが演奏が始まると・・・。マイクのセッティングに問題があったのでしょう。オリジナル盤を蒐集する人の多くが理由を「音が良いから」と答えますが、これではガッカリでしょうね。但し演奏は抜群なので余計に惜しまれます。

 

 

 

BYRD BLOWS ON BEACON HILL / DONALD BYRD (TRANSITION TRLP 17)

 

STEVE FASSETTの録音によるBYRDのワンホーン・セッションの音は良好。トランペットのワンホーン・セッションは特にピアノが本作のように無名だと単調に成りがちですが、敢えてBYRD抜きのピアノトリオの演奏を2曲入れたことが、結果的にカルテット・セッションを引き立てて懸念を払拭しています。BYRDのワンホーンは本作以外に無く貴重です。

 

 

 

WATKINS AT LARGE / DOUG WATKINS (TRANSITION TRLP 20)

 

DOUG WATKINSの他はDONALD BYRD、HANK MOBLEY、KENNY BURRELL、DUKE JORDAN、ART TAYLORと、まるで一連のPRESTIGEのALL-STAR SESSIONのよう。実際、演奏もPRESTIGEと同じで悪く言えばダラダラと続く締まりのない内容(私はPRESTIGEのALL-STAR SESSIONが大好きです。念のため)です。同じようなメンバー、内容なのにオリジナル盤がPRESTIGEに比べて4~5倍高いのは偏にTRANSITIONという希少レーベルのためで過大評価されていると思います。

 

 

 

LUCKY STRIKES / LUCKY THOMPSON BIG BAND (TRANSITION 21)

 

オリジナルはフランスVOGUE(原題『LUCKY THOMPSON WITH GERARD POCHONET’S ORCHESTRA』)、TRANSITION唯一のライセンス発売です。THOMPSON以外はMARTIAL SOLAL以下全員がフランスのミュージシャンで固めています。スウィング色の強い内容でTHOMPSONのテナーをメインに穏やかな演奏が多く、ハードバップ・ファンは物足りなさを感じるはず。THOMPSON以外ではMARTIAL SOLALの小気味よいピアノが光っています。

 

 

 

JAZZ IN TRANSITION / VARIOUS(TRANSITION TRLP 30)

 

TRANSITIONレーベルのオムニバス盤。これが只のオムニバスではなく、SUN RA、CECIL TAYLOR、DONALD BYRD、HERB POMEROYの4曲は、いずれもアルバム未収録曲で残りの3曲は発売されなかったアルバムから。つまり全7曲が本作で初めて日の目を見ることになったオムニバス盤の鏡のような作品。中でも11分に及ぶ「TRANE’S STRAIN」はCOLTRANEが参加しているにも拘らず発売されなかった『CURTIS FULLER-PEPPER ADAMS SEXTET』セッションからで、1970年代にMICHAEL CUSCUNAによって残り2曲とともに発掘され『HIGH STEP / PAUL CHAMBERS-JOHN COLTRANE』として発売されるまではコレクター垂涎の的でした。

 

また個人的には最初に入手したTRANSITIONのレコードで、冒頭に記した盤が削れてしまう事故?を体験したのも、この盤でした。その後、もちろん買換え、同じ轍は踏みません。

 

付属のブックレット各種

『JAZZ IN A STABLE』以外は裏ジャケがブランクのため付属のブックレット(小冊子)が無いとメンバー等の詳細が分かりません。

 

TRANSITIONレーベルには、他にスウィング・ファンに人気のJOHNNY WINDHURSTの『 JAZZ ON COLUMBIA AVE.』(TRLP2)、SUN RAの『JAZZ BY SUN RA』(TRALP 10)、クラシック畑のRUSSELL WOOLEN『QUARTET FOR FLUTE & STRINGS』(TRLP 15)、TRANSITION随一のレア盤CECIL TAYLORの『JAZZ ADVANCE』(TRLP 19)、ニューオーリンズ・スタイルのジャズバンドのDARTMOUTH INDIAN CHIEFS『CHIEFLY JAZZ』(TRLP 23)、ピアノソロのFRAN THORNE『PIANO REFLECTIONS』(TRLP 27)、ヴォーカルのSAM GAY『SINGS』(TRLP F-1)、LOVELY POWELL『LOVELADY』(TRLP M-1)が発売されていますが、所有しておりません。