昨年、2冊の究極のオリジナル盤コレクター向け書籍が発売されました。一冊は某有名組合系ショップの店長が執筆された『アナログレコードにまつわるエトセトラ』、もう一冊はレコード・コレクターズの人気連載コラムをまとめた『初盤道』。ともにディープ過ぎる内容で、ごく一部のマニアコレクターの方々にとっては“バイブル”になると思います。ただ中身は、ほぼロックの(オリジナル盤)コレクター向けで、マトリックスや製造工場についての細かい記述が多く、ジャズ(オリジナル盤)コレクターは頭の中が混乱します。

 

 

『アナログレコードに~』はロックのオリジナル盤コレクターには必携のまさに”バイブル”。カラー・ページも多く

読みやすい。

 

マトリックスについて

そもそもモダンジャズでマトリックス(枝番)があるレーベル自体、COLUMBIA系とCAPITAL、RCA、CONTEMPORARYといった大手しか思い浮かびません。オーナーのジャズ好きが高じて設立されたBLUE NOTE、PRESTIGE等の人気マイナーレーベルにはマトリックス自体が存在しません。これらINDEPENDENT(独立系)レーベルと大手レーベルとの差は何か、発売枚数が圧倒的に違います。さらにジャズとロックでは発売枚数が桁違いです。通常はラッカー盤から複数のマザーが作られ、更にそこから数多くのスタンパーが作られます。一般的に一枚のスタンパーから2000~3000枚がプレスされるようですが、過小資本で資金的に余裕がなかったLEXINGTON時代のBLUE NOTEはマザーは1枚、スタンパーも1枚しか作成しなかったのでは?そしてファースト・プレスはせいぜい1000枚程度、これが盤はフラット、手書きRVG刻印、耳マーク、溝あり、ジャケットは額縁の“完オリ”。好評でバック・オーダーを受けて500枚もしくは1000枚単位で再プレス、これは住所はLEXINGTONで同じでも盤がフラットからグルーブ・ガード付きに変わり、ジャケットも額縁ではなくなります。PRESTIGEでは住所は同じ446W50TH.NYCでもレーベル面がレモン・イエローから山吹色に変わり、文字の配置、フォントが微妙に変化します。でも、これらはレイト・プレスながら(当然鮮度は若干落ちますが)同じスタンパーから製造されたレコードなのです。有名なSONNY ROLLINSの『SAXOPHONE COLOSSUS』でも住所が”446W50TH NYC.”から”203 SOUTH.WASHINGTON AVE. BERGENFIELD N.J.”に変わり、更にはジャケットとレーベル面のデザインが変わった金色のものまで同じスタンパーを使用していたことは有名です。また446W50TH NYC.の一般的にオリジナル盤とされているものにもフラット盤やグルーブ・ガードが付いた盤、ジャケットが微妙に緑色がかったものもあり、バック・オーダーが一定数になる都度、少数再プレスされていたことが伺えます。ただ、さすがにSONNY ROLLINSクラスになると、ある程度は売れると予想が付いていたはずでスタンパーは1枚とは考えられず同じマザーから複数枚(といってもせいぜい2~3枚)作られていたので金色レーベルまで同じスタンパーを使用できたのでしょう。

 

 

住所は446W50THで通常オリジナル盤と言われていますが、盤はフラットではなくグルーブ・ガード付き、ジャケットも緑色がかっていて厳密なファースト・プレスではありません。

 

製造工場について

製造枚数が膨大なロックのレコードは、一つの工場だけでは賄いきれず,西部のモナーク工場、中部のテラホート工場、東部のピットマン工場等に同時に発注していたようですが、発行枚数が少ないBLUE NOTEやPRESTIGE等では“耳マーク”でお馴染みのPLASTYLITE社、“AB”マークのABBEY RECORD MANUFACTURING 社に単独で発注、バック・オーダーで再プレスの場合は別工場に、その場合DEAD WAXから“耳マーク”や“AB”は無くなります。ジャズではPLASTYLITE、ABBEY社製は音が良いとされていますが、ロックではどうなのでしょう?

 

 

B面の住所はLEXINGTON、フラット、耳マーク、手書きRVG、溝あり。ジャケットは額縁無し、スタンパーは同じでもセカンド・プレスです。

 

そんな訳でモダンジャズのオリジナル盤ファースト・プレスの特定は比較的容易ですが、ロックの場合は検証可能なブツは多いものの複雑すぎて、どれがファースト・プレスなのか、どの工場で生産された盤が最も良い音がするのかを厳密に特定するのは困難を極めると思います。

 

『初盤道』の帯に記されている”知らなきゃよかった⁉“は本書でオリジナル盤蒐集の泥沼に引きずり込まれて、楽しみとともに膨大な時間と費用を浪費することを述べているのでしょうが、実際にはあまりにも細かすぎて嫌気が差し、逆にオリジナル盤蒐集から手を引いてしまう結果に繋がるのでは?と心配していますが・・・・杞憂でしょうか?