BOSSのロゴとPERFECT DAYS | ★ワルプルギスの夜★

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つれづれなるままに・・

役所広司さんがカンヌの最優秀男優賞を受賞したし、
周りからも良い映画だと聞いていたけれど
別に、映画館まで足をはこばなくとも
📀になったら観ようと思っていたところ
思いの外、ロングラン上映されてタイミングが合ったので劇場鑑賞する事が出来た





特に、ハートを鷲掴みにされると言った類いの映画では無く
また、繰り返し観に行きたいと言う衝動も起きなかったが
観た後、しみじみ良かったなと思う余韻は残った
そして、かなり受け手側に委ねるところが有る作品だと感じた

私の個人的な感想としては
主人公の平山氏は長い間服役していたとか
長患いで入院していた人から受ける雰囲気を持っているように思えた
一度成功した人生から、リタイアを余儀無くされた人の匂いだった





ダラダラと夜半まで自由にTVを観て、翌日は昼過ぎまで惰眠を貪ったり
何かのイベント事で豪華な食事に出掛けるとか、
気ままに旅に出る事が決して出来ないような規則的な生活を長年送って来て、
いつしか、それが当たり前となり、特に苦痛も感じなくなっているようで
淡々と、ルーティーンに仕事と趣味の木を育てる生活を繰り返す中
ささやかな楽しみを味わっている主人公の暮らしはあまりにもミニマムで


塀の外にいるし、アルコールも呑めるけれど
ほとんど受刑者や入院患者の生活と差は感じられず

ただ、その生活を強制されているか、自ら回しているかの違いだけに見えなくもない






平山氏は、寡黙でほとんど大きな感情の起伏を見せないものの
何故か父親とは疎遠になっていて、
どうしても、彼を許す事が出来ない事情があるようだ

また、密かな、淡い好意を抱きながら
積極的に関係を深めようとはせず、
現状の「ちょっと周りよりは贔屓されている常連客」と言う立場に甘んじていたら
相手(小料理屋のママ)に、泣いてすがる存在がいる事を知って動揺する場面も有り
無口で穏やかなだけでは無い平山氏の一面が垣間見えたりする






若い同僚の勝手気ままに付き合ったり、

姪っ子の短い家出を受け入れるなど
さざなみが立つ事は有っても、基本変わらない主人公の生活は
いつかは、“老い”と言う避けがたい現実が立ち塞がって
終わりを迎えるのだろうが

それまでは、
簡素な住まいで早朝に目覚め
無心に公衆トイレを磨き
木漏れ日の下でランチを頬張り
お気に入りの景色をカメラに納め
熱い銭湯の湯に浸かり
仕事の後の一杯といつもの夕食の後は
眠るまで、誰に邪魔される事なく読書にふける

そのPERFECT な日々を羨ましいと思うか、

いやいや私には無理と感じるか




それは、観る人の立場や性格、年齢、経験などの様々な要素による
それぞれの想いを載せる余地を残した作品だからこそ
こうしてロングランで上映されて来たのだろう







〈長い長い余談〉


トイレの清掃員が主人公の物語と聞いていたけれど
本作では、平山氏が一心に清めていく公衆トイレは、

それほど汚れた描写が無かった





映画に出て来る汚いトイレと言えば、
私の中では、ダントツ『トレインスポッティング』で
ユアンが呑み込まれるソレだが🚽
あそこまで行かずとも、
コンビニでバイトをしている友人から聞く

不特定多数が利用するトイレの惨状と違って
『PERFECT DAYS』の公衆トイレは綺麗過ぎて
ヴィム・ヴェンダース監督が作った一種の極東の島国における

ファンタジーの様に感じてしまった






そして、一番気になったのは、
毎朝出勤前に主人公が自宅のアパート前の

自販機で買って飲む缶コーヒー
役所広司その人が出演しているサントリーBOSSのロゴが
シッカリとこちらに見えるように映っている事が終始気になって
結局、この映画の世界観に心からのめり込めなかった理由は
その一点だったかもしれないw



なお、
本作を観る半月ほど前に『たどんとちくわ』と言う
1998年に市川準監督が撮ったかなりシュールな作品を観ていた
ダブル主演の真田広之が、

それはそれは美麗な頃の映像が目の正月なのだけど、
ストーリーがブッ飛び過ぎて付いて行けず、
若き日の役所広司の役も
最初は長距離の客に上機嫌で話し掛けていたものの
何かの拍子に突然キレて、

その乗客を襲ってしまうタクシードライバーと言う不条理展開で、
正直、この📀を借りて観た事を後悔していた





ところが、『PERFECT DAYS』で役所広司演じる平山氏が、
その日のフェバリット・ソングのカセットテープを聴きながら
早朝、職場までの道のりをご機嫌で運転する場面を観た時、
情緒不安定なタクシードライバーとのコントラストが

内心堪らなく面白くなって
そこで初めて、

たまたま両作を同時期に観られた自分を何てラッキーなんだ❣️と
セット買いの満足を得たと言う余談‥