読書ジャンキーの本棚 -8ページ目

保阪正康 『あの戦争は何だったのか』

保阪 正康
あの戦争は何だったのか―大人のための歴史教科書

目の前に突きつけられた現実から逃避し、その場を取り繕うご都合主義に終始する。
国内外に多大な犠牲を強いた太平洋戦争史を概観すると、良くも悪しくも、日本人の性質が透けて見えてくるようだ。

開戦後の明確な方針もないままに、偏狭な縄張り意識と、自己制御の利かない感情で、暴走してしまう指導層におけるロジックの欠如。
情勢を客観的に分析しようともせず、己の面子のみに過剰反応し、都合の悪い事実を隠蔽、責任を転嫁してしまうメンタリティ。
真珠湾の奇襲が成功しただけで、前後の見境もなく熱狂してしまう国民気質。

こうした事は、形を変えて、戦後の日本社会にも、あらゆる場所で、日常茶飯で見られる光景ではないか。
そんな事に気付かせてくれるためにも、日本人は、あの戦争について、あらためて知る必要がありそうだ。
その手引書として、この新書は最適かもしれない。

本書を著した目的を、著者は、次のように記している。

太平洋戦争を正邪で見るのではなく、この戦争のプロセスに潜んでいるこの国の体質を問い、私たちの社会観、人生観の不透明な部分に切り込んでみようというのが、本書を著した理由である。
あの戦争のなかに、私たちの国に欠けているものの何かが、そのまま凝縮されている。
戦略、つまり思想や理念といった土台はあまり考えず、戦術のみにひたすら走っていく。
対症療法にこだわり、ほころびに、つぎをあてるだけの対応策に入り込んでいく。
現実を冷静に見ないで、願望や期待をすぐに現実に置き換えてしまう。
太平洋戦争は、今なお、私たちにとって、”良き反面教師”なのである――。

そうであるならば、あの戦争は何だったのかを、冷徹な眼で捉え直すことは、同時に、日本人の本質を探りあてる作業であることを意味する。
国際化云々というのであれば、まずは日本人が、日本人自身について知ることが必要だろう。
太平洋戦争史は、その最良の教材であるようだ。

切れ味: 良
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 峰 如之介, 山崎 祥之 『サニーサイドアップの仕事術』

峰 如之介, 山崎 祥之
サニーサイドアップの仕事術

サッカーの中田英寿、水泳の北島康介ら、一流のアスリートたちと契約を結んで、そのマネジメントをするPR会社、サニーサイドアップ。
本書の前書きで、筆者は述べている。


――サニーサイドアップの基幹事業は、PRビジネスである。
クライアントである企業から頼まれて、その企業の商品やサービスをさまざまなかたちで消費者に、文字通りPRする仕事だ。
その手法はさまざまだが、一言でいうと、「ニュースをつくる」仕事、それがPRである。
サニーサイドアップのマネジメントビジネスは、このPRビジネスから派生したものだ。
契約したアスリートやアーティストの魅力をいかに際立たせるか、頭を使い、メディアに訴え、クライアントたる彼らのブランドを確立していく。
それが同社のマネジメントビジネスである。


というわけで、本書は、サニーサイドアップとマネジメント契約を結んだアスリートたちを、同社が、そのPRのノウハウを駆使し、どのようにして、個人ブランドの価値を向上させていったのかを、取材形式で紹介している。


いろいろなケーススタディを取り上げ、結論としては、これからは企業も、そして個人も、自らのブランド価値を発見し、それを戦略的に構築していくことが必要だとしている。


まあ、この本自体は、サニーサイドアップの取材協力のもと、同社のPR・マネジメント事業を宣伝するタイアップ出版という印象を受けるので、筆者の批判的考察などは見当たらない。


が、普通の個人にとっても、これからはPRを戦略的に活用したブランド価値の向上が必要ということを認識させてくれるという意味では、読んで損はないかもしれない。



切れ味: 可


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 芥川龍之介 『蜘蛛の糸・杜子春』

芥川 龍之介
蜘蛛の糸・杜子春

学生の頃、夏休みに出される課題図書として読んだ人も多いのではないだろうか。

芥川が得意とした説話を下敷きにした幻想的な作品を中心に、十篇の短編が収められている。
児童文学ということを意識してか、芥川作品にしては、明るい色彩を帯びたハートフルな物語が多い。
中でも、仙人と青年の交流を描いたファンタスティックな物語『杜子春』は、何度読んでも飽かせない逸品だ。
仙人に弟子入りして、不思議な仙術を会得するために、あらゆる試練に耐えた杜子春も、母親の無償の愛を知って、遂に仙術を諦めてしまう。
個人的には、芥川作品の中で一番好きな小説だ。

児童文学とはいっても、この短編集に収められた諸作品は、小説としての完成度が高いものばかり。
いい歳をした大人の皆さんも、学生だった頃に戻った気分で、いま一度読み返してみるのも悪くはないと思う。
歳月を重ねた分、以前に読んだ時とは違った感想を抱くのではないか。

それにしても、芥川龍之介の小説は、晩年の作品を除けば、どれも面白いものばかりなのに、芥川賞の受賞作品は、総じて退屈な作品が多いのは、何故だろう?

切れ味: 優


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岩井志麻仔 『ぼっけえ、きょうてえ』

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第六回ホラー小説大賞受賞作品。
本の題名になっている「ぼっけえ、きょうてえ」は、岡山地方の方言で、「とても怖い」の意――。

との説明文が添えられている。


表題作の「ぼっけえ、きょうてえ」以下、四つの短編が収められている。
いずれの作品も、物語の時代設定は明治、その舞台は岡山地方である。
そして、典型的な怪談仕立ての作品ばかりで構成されている。



したがって、ホラー小説としての目新しさはない。
しかし、作品は、どれも伝統的な日本特有の湿った土壌からしか、醸成し得ないものばかりだ。
それを効果的に演出するためには、どうしても、現代とは異なる明治という時代設定と、昔からの風習と土着性が色濃く残る地方都市という舞台が必要だったのだろう(まあ、著者が岡山出身というのも大きいとは思うけれど)。


どの作品も、伝統と因習に縛られた人間関係の息苦しさと、狭い村意識から来る、自分たちとは異質なものへの畏怖と侮蔑、そして憎悪の感情が、怪異な事件を生み落とす仕掛けになっている。


そして、死の腐敗臭が漂ってくるような濃密な愛憎劇から引き起こされる怪異話は、派手な演出はないが、頁を繰るにつれ、次第に怖気が這い登ってくる感覚に浸れる。


地方の方言を駆使した文体も、なかなか表現力に富んでいて、美しくて、残酷で、不気味な物語に上手く溶け込んでいる。


個人的には、流行のサイコパスや超常現象をテーマにしたものよりも、土俗的な怪談が好みなので、堪能できました。



切れ味: 可


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野口悠紀雄 『「超」納税法』

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本書のあとがきで、著者は次のように述べている。
――「一人一人の生活にも、日本の進路にも重大な影響を与えるもの」という観点から、相続税とサラリーマン税制を取り上げた。


タイトルから、てっきり節税のハウツー本というイメージを受けてしまうが、実際には、日本の税制、特に相続税、給与所得控除に潜む問題点を指摘し、かつサラリーマン法人を提案した真面目な本である。


といっても、小難しいことを書いているわけではなく、我々の身近な日常生活に引き寄せる形で、税制の問題を扱っているので、最後まで飽きさせない。
文章自体も極めて読みやすい。


一般に流布している「相続税は重い」というのは、誤解であることを指摘し、相続税を減税する動きに対しては、かえって構造改革に逆行し、社会の固定化をもたらすと警鐘を鳴らしている。


また、勤めていた会社との雇用契約を、業務委託契約に切り替える「サラリーマン法人」の設立は、本人、勤めていた会社の双方にとって、節税その他でメリットがあるとしている。
たしかに、固定費を低く抑えられるし、年末調整などの煩瑣な仕事が減る分だけ、会社にとっては、都合はいいだろう。


このサラリーマン法人の提案は、かなり飛躍しているように思えるが、米国では、このような就業形態が増加しているらしい。
だとすれば、社会風土の違いはあるにしても、タイムラグを置いて、いずれは日本でも、こうした就業の在り方が当たり前になってくるのかもしれない。
いわば、大量の個人アウトソーサーが増えるということになる。


でも、これは、相当なスキルを持った人でなければ、リスクが高すぎるように思える。
実際問題として、その人が就いていた職種が、アウトソーシングサービスに向いているのか?
また、持続した委託契約をやっていけるほどの高いスキルを、どれだけの人が持てるのであろうか?
個々人の置かれた環境、そして能力に格差がある以上、独立したプロとしてやっていける人など、ほんの一握りしかいないからだ。



切れ味: 可


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中西輝政 『大英帝国衰亡史』

中西 輝政
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近代の世界史は、同時に、「パクス・ブリタニカ」の時代であったともいえる。
その大英帝国の興隆~衰亡期の変遷を題材にしている。


本書の特色としては、大英帝国の興隆と繁栄、そして衰退の要因を、各時代を担った指導者層の、その貴族的な精神性に置いている点である。
エスタブリッシュメントの「威信と精神力」こそが、大英帝国の支配と統治の基礎を成している。
この特異な「威信」のシステムが、小さな島国で、かつ資源も限られていた大英帝国を支えていた。
だから、エリートの価値観や精神構造を理解する事が、興隆と衰退の本質を解明することにもなる――。
というわけだ。


この「エリート史観」(著者は前書きで否定しているが)ともいえる考え方には、賛否両論があるだろう。
ただ、著者の視点が、首尾一貫しているので、混乱せずに読み通せる。
もっとも、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』にあやかったと思われる仰々しいタイトルに、中身が追いついていない印象も受けたが。
ごく簡単に、近現代のイギリス史をおさらいしたいと思っている人には、入門書として、いい本かもしれない。



切れ味: 可


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 ピーターパレット・著/白須英子・訳  『クラウゼヴィッツ――「戦争論」の誕生』

ピーター パレット, Peter Paret, 白須 英子
クラウゼヴィッツ―『戦争論』の誕生

戦争とは、他の手段をもってする政治の継続である――。
プロイセンの軍人、クラウゼヴィッツの『戦争論』に出てくる有名な言葉である。


十九世紀に書かれたこの有名な古典は、『孫子 』、マキァヴェッリの『君主論 』とともに、いまだに世界中の政治家、経営者などが、座右の書としていることが多い。
また、経営戦略、マーケティングに、その理論を応用したビジネス書などが出版されたりもしている。
翻訳本は、複数出版されている。


しかし、実際のところ、日本では『戦争論』そのものをを読んだ人は、あまりいないのではないたろうか。
私も以前、興味に駆られて読み始めたものの、すぐに投げ出してしまった。


挫折した理由は、以下の二点。
文章が難解であること。
執筆された当時の時代状況が分からないので、内容が理解し難いこと。
これは、和洋を問わず、古典を読むうえで、必ず突き当たる壁でもある。


そこで、この古典を理解するために、まずは執筆者であるプロイセンの軍人、クラウゼヴィッツの人物評伝に取っ組んでみることにした。
それが本書である。

この評伝も、かなりの分量があり、かつ生硬な文章なため、読むのに骨が折れるが、それだけの価値のある本だと思った。


クラウゼヴィッツの生涯は、同時に、当時の欧州大陸をおおったナポレオン戦争と、近代国民国家の萌芽期と重なっている。
クラウゼヴィッツの人物像、そして、彼の置かれた時代状況を知ることで、初めて、彼が『戦争論』を執筆した動機が見えてくる。


実際の戦争では、予想もしなかったことが常に起こる。
合理よりも、非合理、非常識な行動や出来事ばかりが、幾重にも重なる。
絶えることのない摩擦と偶然、軍隊の心理状態によって、机上で練った作戦計画などは、見事に消し飛んでしまう。
クラウゼヴィッツは、そうした戦争の本質を、彼自身の従軍経験と、膨大な戦史の探究によって、理解し、その冷厳な現実を前提としたうえで、彼独特の軍事理論を構築していった。
そのことを理解しなければ、『戦争論』の本質は見えてこない。


だとすると、現在、巷に横行するビジネス書などで、安易に、『戦争論』の文章が、部分的に抜粋され、前後の文脈を無視し、都合のいい解釈で濫用されている状況は、逆に、この古典の価値を徒に貶めているのかもしれない。




切れ味: 可






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児玉博 『幻想曲――孫正義とソフトバンクの過去・今・未来』

児玉 博
幻想曲 孫正義とソフトバンクの過去・今・未来

時代の先駆者なのか、無責任極まる虚業家なのか――。


この本は、IT業界のガリバー企業、ソフトバンクの総帥、孫正義を、さまざまな角度から照射して、その実像を浮き彫りにしようと試みた人物ノンフィクションである


旧態依然とした既得権の横行する日本社会に風穴を開けた風雲児。
一方で、ネットバブルを煽った「稀代の山師」とも。
毀誉褒貶する孫のルーツを求めて、その出身地を訪ねることから、物語は始まる。


在日三世の出生というだけで、当たり前のように可能性が閉ざされてしまう時代があった。
むろん今でもそうだろうが。
そんな自分を取り巻く環境が、孫の飽くことなき上昇志向の源泉になっていることは確かだろう。


そして、若き日の渡米経験が、その閉ざされた自分の可能性を開いてくれるものは、事業以外にはないことを、気づかせてくれた。
孫が、米国留学の経験で見出した事業の原点は、日本と米国の間にある経済ギャップと、時間差を利用すれば、他人より一歩を先んじることができる「タイムマシーン経営」であった。
つまり、「時間と情報のサヤとり(アービトラージ)」で稼ぐという手法である。
これに加えて、「急成長」「スピード」「何もしないことがリスクなのだ」という信条も、米国での経験から学んだものであろう。
それらが、孫が事業をするうえでの行動規範になっている。


当然のごとく、その事業は地味にコツコツと、牛の歩みのように遅いものではない。
世間的な常識の尺度を超えた手法で、注目を集めつつ、一気に飛躍しなければならない。
それは、無謀ともいえる投機性、賭博性の強いものになる。
孫が、リスクティカーといわれる所以だ。
そんな孫を、ソニーの元会長、出井伸之は、「選択眼のいいギャンブラー」と評した。
それだけに、狙った獲物を獲得する時の集中力はずば抜けている。
だが、手に入れた途端に、その対象への興味を失ってしまう。
ナスダックジャパンの創設や、あおぞら銀行への資本参加と、その後の顛末などは、その最たるものであろう。


閉塞した状況を破る破壊者ではあるが、建設者としては不向きということか。
著者は、この本の最後を次のように締め括っている。


――孫は”失われた十年”と呼ばれた時代に最もその輝きを見せた。
破壊者、ルールブレーカーの役回りこそ、孫を孫たらしめていた。
孫の存在がなければ、はたして楽天の三木谷や、ライブドアの堀江が、いまのかたちで登場することはできただろうか?
しかし、最終的に経営者として名と実を残すのは後者のような気がする。
なぜなら孫は、経営者ではなく、やはり時代が生んだ一代の梟雄に他ならないからだ。


著者の言葉は、さしずめ孫が尊敬しているという幕末の坂本竜馬の役割と最期に重ね合わせているかのようである。
孫は、これを読んで、果たしてどう感じるのであろうか。


この本は、なかなかのノンフィクションに仕上がっているとは思うが、雑誌連載をまとめたものなので、重複する箇所が何度も出てきて、正直うざい。

それに度々、時間軸が前後したり、横道にそれすぎたりもしている。
著者か、編集者は、ゲラの校正段階で刈り取る作業をすべきではなかったかと思う。



切れ味: 可


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新宿鮫 』の一作目に続いて、第二弾『毒猿』を再読。


ド派手度およびに面白度は、シリーズ中で随一。
その最大の要因は、鮫島警部が追う台湾人の殺し屋、通称「毒猿」の圧倒的な存在感だ。


台湾の特殊部隊の元精鋭隊員にして、暗殺を請け負う一匹狼の殺し屋。
殺人現場に、木彫りの猿面を置いていくことから、「毒猿」と名づけられている。
その「毒猿」が、ある目的をもって、密かに新宿の街に潜伏――。


感情を見せず、ほとんど喋らない寡黙にして、ストイックな殺し屋「毒猿」のキャラクターは、とても魅力的だ。
敵役であるにも関わらず、完全に主人公の鮫島を喰ってしまっている。
まあ、そういう風に、著者が意図したのでもあろうが、それが見事に効を奏している。


この作品を頂点にして、それ以後のシリーズ作品は、一定の質を保っているとはいえ、次第にテンションが低下している。
これも、シリーズ化につきもののマンネリズムの宿業であるから仕方がないともいえるのだが。


切れ味: 良 


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古今東西の名将たちの格言を引用しながら、戦争という現象を考察しようと試みた本です。

が、そうした著者の意図に、本の内容か全く追いついておりません。


格言集であっても、引用文の抜粋には、それなりの著者のセンスが問われます。

著者の引用文に対する見解は、恣意的なものが多いように見受けられます。


思わず失笑してしまうのが、ラストの方で、日本は、再び武士道の香り高い行動基準を掲げて、「強いことは良いことだ」と自信をもって叫ぶべきだ、などとのたまっていることです。

これでは、旧日本軍の参謀将校らと何ら変わらないのではないでしょうか。


いっそのこと、版元も、文藝春秋なような老舗から出すのではなく、この類のアンチョコ本を大量出版しているPHPや三笠書房あたりから出版した方がよかったのでは?



切れ味: 不可


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